■ 誰の困りごとか
空き家や土地を相続・売却しようとする所有者と、その仲介を担う不動産業者。
■ どこでの困りごとか
特に地方都市(岡山県等)
■ どんな困りごとか
資産価値の低さに反比例して膨らむ「行政情報の不透明さ」と「親族・隣人間の感情的対立」により、円滑な資産流動が著しく阻害されている。

課題説明


時間軸の歪み:不透明な「調査コスト」の先行投資
地方の不動産売買において、仲介業者は成約の保証がない査定段階で、半日から一日を費やして役所を回り、道路幅員や上下水道、農地転用の可否を調査する。この「足で稼ぐ」情報の収集プロセスはデジタル化の恩恵を十分に受けておらず、成約時にしか発生しない手数料収入に対し、サンクコスト(埋没費用)が膨らみ続ける歪な構造にある。

コスト構造の矛盾:単価と工数の逆転現象
都心の高額マンションは「同じ建物・同じ間取り」という規格化された情報により、調査工数が極めて少ない一方で、地方の戸建ては、前面道路の種別や隣地との境界確定など、一件ごとに異なる物理的な負を抱えている。売価が安く、手数料が低い物件ほど調査・調整工数が激増するという、経済合理性に反する市場環境が、地方の「負動産」化を加速させている。

技術の空白:地中に埋まる「情報の非対称性」
行政の管路図に記載のない「私設の水道管」や、かつての口約束で決められた「曖昧な境界線」など、物理的な事実にアクセスする手段がいまだに「掘ってみるまでわからない」「隣人に頭を下げる」といったアナログな手法に留まっている。これら計測不能な因子の存在が、買い手にとってのリスクとなり、金融機関の融資判断を硬直化させる要因となっている。

心理的負債:意思決定を凍結させる「欲望」の衝突
不動産は単なる経済的資産ではなく、親族間のパワーバランスや隣人との長年の恩讐が凝縮された「感情の容器」である。相続放棄ができないという法制度のバグと相まって、数センチの境界線を巡る「欲」の衝突が合理的な意思決定を阻害し、結果として誰にも管理されない空き家や山林が放置される結末を招いている。


岡田さん プロフィール

岡山市内を中心に活動する不動産売買のスペシャリスト。事務スタッフと2名体制で、月3〜4件、年間40〜50件の不動産の売買に携わる。既存のシステムに頼らず、Google Mapとクラウドストレージを組み合わせた独自のナレッジ共有基盤を構築し、精度の高い査定と迅速な意思決定を実現している。

インタビュー


「役所を回って一日が終わる」——DXの恩恵なき地方調査の過酷

──地方の不動産調査において、現場で最も「無駄」だと感じる瞬間はどこですか?

役所の窓口巡りですね。岡山市内はネットで一部の管路図が見れるようになりましたが、一歩外れた周辺自治体に行けば、いまだに上下水道局や農業委員会を物理的にハシゴして回る必要があります。

往復と待ち時間だけで半日は確実に潰れます。しかも、そこまでして調べても「この土地は道路幅が数センチ足りないから再建築できません」となれば、その日の工数はすべて水の泡、査定額もゼロに等しくなる。この「調べてみないと価値が確定しない」という不確実性が、実務者の首を絞めています。

──その調査コストは、最終的な手数料で回収できるのでしょうか。

物件価格が安い地方では、手間をかければかけるほど赤字に近づきます。だからこそ、多くの業者は手のかかる地方の戸建てや空き家を避けて、情報の整っているマンションや都心の物件に行きたがる。

地方に空き家が残るのは、単に需要がないからではなく、調査工数という「見えないコスト」が流通を止めているからです。

地中のブラックボックス——「謎の水道管」が引き起こす数百万の紛争

──「調査しても防げないトラブル」として、地中のインフラ問題を挙げられていましたね。

私設管(しせつかん)の問題ですね。行政の図面には載っていない水道管が、解体してみたら地中から出てくる。それが隣の家と繋がっていたり、数軒先まで伸びていたりするんです。

もしその管が壊れてしまえば、誰の費用で直すのか、どこと付け替えるのか。数百万単位の工事費を巡って、売主、買主、近隣住民が入り乱れる大揉めに発展します。

──行政はそれを把握していないのですか?

把握していません。昔の人が勝手に引いたものや、図面が残っていない古い管が山ほどあります。これを発見するには、水道屋を呼んで一軒ずつ蛇口を開けて、水がどこに流れるかを確認して回るしかない。

これが解決できない限り、古い土地を買うことは、いつ爆発するかわからない負債を買うことと同義になってしまいます。

欲望がクロスする境界線——合理性を阻む「感情」の壁

──親族や隣人との調整についても、かなりハードな交渉をされていると伺いました。

不動産は「人間の欲」が最も生々しく出る場所です。相続で兄は売りたいが弟は思い出の地として残したい、といった身内の揉め事は日常茶飯事です。さらに、隣地との「境界確定」が最大のハードルになります。土地を1センチでも広く見せたい、あるいは関係がうまくいっていない隣人が、「印鑑は押さない」と拒否するだけで、売買そのものがストップしてしまいます。

──人と人との間に立って調整する仕事が多すぎますね。

本当ですね(笑)。手土産を持って何度も隣人の元へ通い、昔の話を聞き出し、「今ここで確定させないと、あなたの子供世代がもっと困りますよ」と、粘り強く説得して信頼を勝ち取る。この泥臭いプロセスを完遂しない限り、地方の土地は一歩も動きません。東京の規格化されたマンション売買とは、全く別次元の「人間関係の整理」という技術が求められているんです。

「負動産」の終着駅——所有権放棄という禁断のニーズ

──最近、お金を払ってでも土地を手放したいという相談が増えているそうですが。

ありますね。特に山林などは、どこからどこまでが自分の土地かすら分からず、毎年固定資産税と維持費だけが出ていく。子供に負債を継がせたくないという一心で、400万、500万という現金を添えてでも、土地を引き取ってほしいというニーズは確実に存在します。

国が引き取ってくれない以上、民間業者に金を払って「処分」してもらうしかない。経済合理性で言えば捨て去られるべき土地を、いかにして「価値あるもの」に読み替えるか。あるいは、そうした制度のバグを、テクノロジーや新しいビジネスモデルでどう解消していくのか。今の不動産業界が直面している、最も重い問いだと思います。


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