竹林経営・造林業者
■ どこでの困りごとか
竹材の膨大なストックを抱えながら、切り出しコストが合わず産業として離陸できない鹿児島・九州の竹林業界。
■ どんな困りごとか
① 需要と単価の逆転
・引き合いは増えているのに赤字になる: 養殖イカダ・家畜飼料・プラスチック代替・セルロースナノファイバー(CNF)など産業界の需要は多様化しているが、現場では供給するほど赤字になる逆転現象が起きている。
・キロ10円の壁: チップでキロ20円、粉末で40〜50円という買取単価に対し、山から切り出す側が受け取るのはキロ10円。一日がんばって50本切り出しても日当は約5,000円にしかならない。
② 工程の多さと担い手不足 ・6工程の壁:
伐採→引き出し→玉切り→集積→積み替え→運搬と工程が多く、生産性が根本的に上がらない構造になっている。
技術習得の高いハードル: 竹を切り・搬出するのはほぼ林業の世界。チェンソーの使い方から体力づくりまで、参入者を育てるコストと時間がかかる。
③ 評価軸と流通システムの不在 ・体積査定の致命的な欠陥: 竹は中空のため体積で評価すると木の約1/3の単価にしかならない。杉材1本5,000〜6,000円に対し、同じ手間をかけた竹は単価が追いつかない。 ・サプライチェーンが存在しない: 産業界が求める「トン単位・定時・定量」の供給に応えられる、システム化された竹林業者が国内にほぼ存在しない。
課題説明
需要と単価の逆転
産業界からの引き合いは確実に増えています。養殖イカダ・家畜の粗飼料・プラスチックへの混合材・CNF(セルロースナノファイバー)と用途は広がっているのに、現場の切り出しコストは単価の上昇に追いつかない。キロ10円で100キロ切り出しても1,000円。ガソリン代が上がり続ける中で、「3日がかりの作業で日当5,000円」という現実が、担い手を離れさせ続けています。用途(出口)は見えているのに川上(切り出し)のイノベーションが不在で、産業として離陸できないままです。
工程コストの歪み
竹の伐採手間は杉と変わりません。切って、倒して、運び出す——この作業量は同じです。しかし杉材が1本5,000〜6,000円の単価を持つのに対し、竹は中空のため体積で測れず、木の約1/3の評価しか得られない。同じ労力で3倍以上の本数を切らなければ同等の売上にならない計算です。さらに、伐採→引き出し→玉切り→集積→積み替え→運搬という6つの工程が生産性の上限を決めており、この工程を削らない限りコストは下がりません。
技術の空白
竹林業は歴史的に「農家の冬場の副業」として扱われてきました。杉材のように団地化してシステム管理する発想がなく、流通評価の仕組みも存在しない。山にトラックが入れる「作業道」を整備し、切った竹をそのまま積んで運び出す工程のショートカットが、現時点で考えられる最もシンプルな解決策です。しかし作業道整備のノウハウも資金も個人業者には乏しく、この初期投資の壁を越えるための仕組みが業界全体に欠けています。竹は植えなくていい——3〜5年サイクルで確実に収穫できる唯一の林業資源でありながら、その強みを活かすインフラが整っていません。
上枝(かみえだ)さん プロフィール
鹿児島在住の竹林経営・造林業者。補助事業を活用しながら竹材の伐採・搬出・販売に取り組む。養殖イカダ向けの輸送から家畜飼料・プラスチック代替材への活用まで、竹材の多様な用途を現場で実践してきた。「100ヘクタールの竹山を30ヘクタールずつ毎年伐採する循環型モデル」を構想し、山に作業道を引くことで切り出しの工程を抜本的に削減する取り組みを進めている。
インタビュー
1. 放置竹林という社会問題と、実は存在する需要
── 竹材が抱えている課題を教えてください。
最終的に僕が考えているのは、やっぱり竹材を伐採して、人がちゃんと食っていける環境が作れたら一番いいな、ということです。実際に、広島や岡山、福島でも養殖イカダに竹が使われています。でも今、広島でカキ養殖が深刻な問題になっていて、来年のイカダに使う竹をどうしようかという状況になっている。竹自体はあるけれど、養殖する側の環境が厳しくなっている。
── 素人から見ると不思議な状況です。竹林は社会問題になっているのに、需要はある。
そうなんです。用途はあるんですよ。でも、普通にやっていては稼げない。キロ10円で100キロ切っても1,000円。ガソリン代も上がっているのに生活できるかという話です。山から運び出すのも、1日頑張って50本(約150キロ)が限界。3日がかりで作業して日当5,000円じゃ厳しい。だから僕みたいに、補助事業を組み合わせてやるしかない。
── 竹を使う用途はどれくらい広がっているんですか?
チップにして家畜の飼料にしたり、SDGsの流れでプラスチックに混ぜてコスト削減・環境負荷低減につなげる取り組みが出てきています。粉にすればキロ40〜50円くらいになるのかな。チップでキロ20円くらい——僕らが出すと10円だけどね(笑)。さらに、セルロースナノファイバー(CNF)の原料にする話もあって、鉄の5倍の強度で重さは5分の1。ただ、これもコストが高くて伸び悩んでいる。みんな大規模にしたいんですよ。でも「じゃあ竹は誰が切るのか」という問題に戻ってくる。
2. 杉と竹——同じ手間で、なぜ単価が1/3なのか
── 杉材と比較するとどうなんですか?
杉は1本5,000円〜6,000円、良いものならもっとします。竹は中が空洞だから体積で測れない。木の3分の1くらいのイメージですね。伐採の手間は変わらないのに、単価が追いつかない。切って倒して運び出す——その作業量は同じなのに、竹の場合はもっと早くやらないと木に追いつかない。木1本切り出す間に、竹は3本以上切らないといけない。
── それでも、竹特有の強みはありますか?
竹の良いところは「植えなくていい」ことです。3年〜5年サイクルで回せる。杉は50年〜100年サイクルですが、竹は3年で来てくれる。100ヘクタールくらい確保して、30ヘクタールずつ毎年伐採していけば、循環型モデルとして成立するはずです。試験所でも試して、そのイメージはある程度固まってきています。
── 歴史的に「竹材の林業」というのはなかったんですか?
ないですね。昔は農家の冬場の副業程度でした。田んぼや野菜がある夏場は山に入らず、冬場は仕事がないから山に入ってたけのこを掘る。そのついでに竹材を少し出す、という感じで。杉材のように団地化して、材としてシステム化してやっていこうというのは、今の僕の構想くらいかもしれません。
3. 6つの工程——削れるのはどこか
── 現場の切り出し工程はどうなっていますか?
今の工程は、伐採→引き出し→玉切り→集積→積み替え→運搬です。工程が多い。これを減らしたい。切ってすぐトラックに積んで持っていければ一番なんですが、今は一回積み替えが入る。山から出して、集積場に持っていって、また別の車に積んで配送、という流れになっているんです。
── どうやって工程を削るんですか?
まず、山にトラックが入れる「道」を作ることです。そうすれば、切った竹を3〜4メートルに玉切りして、その場でトラックに積んで、そのまま持っていける。間の積み替え作業がなくなる分、作業時間とコストを大幅に削減できます。生産性を上げることが第一前提です。
── 現場での粉砕はどうでしょうか?
粉砕機をショベルにつけて現場でやるという方法もあるんですが、「何に使うか」によって粒度が全然違う。微粉末にするなら、現場ではできなくて、工場に集約しないといけない。綺麗にします、粉砕します、と言う業者はいますが、それは「材」としての活用ではなく廃棄コストの話なんですよね。竹山にお金を出してなんとかしてくれという地主はまずいない。だから、そこだけでは産業にならない。
4. 単価か、コストか——竹林業が産業になる条件
── 解決の方向性はどう見えていますか?
単価を上げるか、コストを下げるか、どちらかです。今考えているのは手間を1つ抜くこと——山に道を作り、切ってそのまま積んで運ぶ。機械化すればコストも油代もかかるから、いかに効率よく出すかが鍵になります。
海外ではバンブーストローなど竹への関心が高い。日本国内だけでなく、海外に販路を向けるのも手かもしれない。また、6次産業化して素材から製品まで一貫して作れれば、どこかでコストを圧縮して戦えます。竹は適切な処理(油抜きなど)をすれば、数年経っても色褪せない。素材としてのポテンシャルは確かにある。
── 最終的にどういう姿を目指していますか?
誰かが切って出さないと、何も始まらない。「持ってきて」と言われても「20円じゃないと無理だ」という壁がある。そこをどう突破するか。整備された竹林って、理屈抜きに綺麗なんですよ。緑が柔らかくて、わびさびというか。誰が見ても「いいな」と思える景観。そこを守りながら、林業として生きていけるビジョンがあれば、次の世代に継がせられる。まずは一度、現場を見に来てください。道を作っているところを見れば、イメージが湧くと思います。