小さい子どもを育てる親(特に保育園に通う年齢)
都市部の小児科受診・予約・通院プロセスにおいて
子どもの体調不良が午後に発生した場合、予約が取れず、長時間待機や仕事調整を強いられる。
課題説明
本質的な問題は、「医療提供側の時間構造」と「子育て・労働側の時間構造」の不一致にある。小児科の予約は朝の特定時間に集中し、その時点で一日の診療枠がほぼ埋まる。一方で、子どもの体調不良は予測不可能であり、親のスケジュールとも無関係に発生する。結果として、医療へのアクセスは「必要なタイミング」ではなく「予約が取れたタイミング」に依存する構造になっている。
予約が取れなければ、非予約制の医療機関に頼るしかないが、そこでは数時間単位の待機が発生する。この待機時間は単なる機会損失ではなく、子どもの体調悪化リスクや、仕事の中断・夜間リカバリーといった形で複合的な負担となる。医療費は低く抑えられている一方で、時間と労働のコストが家庭側に押し付けられている。
現状の解決策では「分断された最適化」が課題である。オンライン予約、オンライン診療、薬局連携など個別機能は存在するが、それぞれが連携しておらず、ユーザーは毎回異なるシステムを操作する必要がある。さらにオンライン診療は、症状の重さや不確実性が高い場合には判断が難しく、結局対面受診に回帰する。「診断に必要な情報が遠隔で取得できない」という制約が残る。
加えて、心理的負債が意思決定を歪めている。仕事を抜けることへの遠慮、家族に頼ることへの負い目、子どもへの罪悪感が重なり、親は常に最適とは言えない選択を迫られる。これは制度の外側にあるが、実際の行動に強く影響する構造的要因である。
最後に、情報の非対称性。どの病院が空いているのか、どれくらい待つのか、どの医師が信頼できるのかといった情報は統合されていない。結果として、親は「行ってみないとわからない」状態で意思決定を行うことになり、無駄な移動や待機が発生している。
上前万由子さん プロフィール

インタビュー
「朝の時点で一日が決まる」——予約システムが前提にしている生活リズム
──普段、お子さんの通院はどのようにされていますか?
基本的には、いつも行く小児科と、そこがダメだった時の第二候補があって、そのどちらかに行く形ですね。何か病院にかかりたいことがあればまずそこで予約を確認してみるようなイメージです。
──予約はどのような仕組みですか?
オンライン予約なんですが、朝7時から午前の枠、午前11頃に午後の枠が予約できるようになります。
インフルエンザが流行っているような混んでいる時期だと、午前中の時点で午後の枠まで全部埋まってしまうことが多い印象がありますね。
──その場合、午後になって当日受診したくても難しいことがあるんですよね。
そうですね。夕方に「やっぱり病院に行っておきたいな」と思ったり、午後になってから保育園から「体調が悪いので迎えにきてください」と言われたりしても、もう予約が取れない状態になっていることが多いです。
──そうなると、朝保育園に送る前に病院に行くか決める必要があるんですね。
そうなんです。
しかも、朝の7時のタイミングで予約を取らないといけないので、まだ頭も回っていない状態か、朝の準備で忙しい時間に判断と予約をしないといけない。そこは結構しんどいですね。
「ログインから始まるストレス」——分断されたシステムの非効率
──予約の取りやすさについてはどう感じていますか?
昔よりは良くなっているとは思います。そもそも昔は予約制ではなかったり、電話で予約を取る必要があったので。オンラインで予約を取れるようになったことはありがたいなと思っています。
ただ、病院ごとにシステムが違うので、毎回ログイン情報を入れて、診察券番号を入れて、生年月日を登録して…というのをやらないといけないのが結構面倒です。
──統一されていないことが負担になっている?
そうですね。韓国だと一つのアプリで全部の病院を予約できて、個人情報も登録済みなので、数クリックで終わるんです。
近くの病院を探したり、待ち時間や口コミを見ることもできます。それと比べると、日本はかなり手間がかかるなと感じます。
「予約が取れなければ並ぶしかない」——時間コストの押し付け
──予約が取れなかった場合はどうされますか?
飛び込みで診てくれる病院に行きます。ただ、そういうところは本当に待ち時間が長くて、2〜3時間待つことも普通にあります。
基本はその場で待つか、少し外に出るくらいです。でも子どもが体調悪い状態なので、あまり動き回ることもできないですし、ショッピングモールにあるわけでもないので、時間を潰せる場所でもなく、かなり大変です。
──仕事との両立はどうされていますか?
会社としては非公式の対応にはなりますが、中抜けして、その分を夜にやることが多いですね。ただ、時間が固定されている仕事だとそれもできないので、そういう方はかなり厳しいと思います。
──実質的に「時間で解決するしかない」状態ですね。
そうですね。予約が取れない=時間でカバーする、みたいな感じになっています。
「オンライン診療の限界」——“判断できない”ケースが残る
──オンライン診療は活用されていますか?
使っています。ただ、使える場面はかなり限られていると感じています。
例えば保湿剤が欲しいとか、いつもの喘息の薬が欲しいと言った時には家からお願いできるので便利だなと思っていますね。
──それ以外のケースだと難しい?
はい。例えば「いつもと違う咳」とか、「ちょっと様子がおかしい」とか、そういう時はオンラインで本当に判断できているのか?と不安に思います。カメラ越しで様子を見るのには限界があるように感じて。
喉を見たり、心音を聞いたり、そういった診査ができないままだとな…と。
オンラインで診てもらった結果、「病院で診てもらってください」と言われると、時間もお金も二重にかかる感じになりますし。
「問題は予約だけではない」——“困らない社会”への視点
──この課題に対して、どのような解決が必要だと感じますか?
予約の仕組みが良くなることも大事なんですけど、それだけでは足りないと思っています。子どもが体調を崩すこと自体は避けられないので、その時に困らない社会であることが大事だと思います。
──子育て支援のあり方についてはどう考えていますか?
誰かに子育てを代わりにしてもらうことが支援だとは思っていなくて、自分が子育てと仕事を両立できるようにすることが大事だと思っています。そのための環境づくりが必要なんじゃないかなと思います。
誰かの困りごとを、次の事業に変える一歩を踏み出しませんか。