■ 誰の困りごとか
中山間地域の小規模農家や、新たに農業に参入した新規就農者
■ どこでの困りごとか
集落単位で農機具を共同管理・利用している地域コミュニティ
■ どんな困りごとか
農機具の共同利用において、天候による作業重複や不透明な管理体制、清掃・故障時の責任の所在が曖昧であるため、非効率と分かっていても高額な個人所有を選択せざるを得ない構造。また、補助金受給に伴うアナログで膨大な事務作業が生産性を著しく阻害している。

課題説明

時間軸の歪み:
稲作等の農作業は、気象条件と作物の生育状況によって「最適な作業ウィンドウ」が極めて限定される。数日ずれるだけで品質や収量に影響するため、集落内での農機具予約は一点に集中する。雨天による順延が発生した際、既存の予約システム(あるいは慣習)では柔軟な組み替えができず、結局「自分のタイミングで動ける」個人所有への回帰を促す要因となっている。

コスト構造の矛盾:
コンバイン等の農機具は1台200万円を超える高額資産だが、年間稼働日はわずか数日(1.5日程度)である。本来は共同利用が経済的に合理的だが、利用後の清掃(外部委託で5万円/回)や、不適切な使用による故障リスクの分担が不明確なため、管理コストが心理的・経済的便益を上回ってしまっている。

技術の空白:
「誰がいつ、どの状態で返却したか」というトレーサビリティの欠如。現状は組合長の記憶やアナログな管理に依存しており、若手農家が遠慮して機械を使えない、あるいは故障の原因を押し付けられることを恐れるという、物理的・心理的な情報のブラックボックスが存在する。


高本亜梨紗さん プロフィール

熊本県高森町周辺にてピーマンのハウス栽培(約5反)を営む新規就農者。地域コミュニティに根ざしながら、補助金を活用して事業を立ち上げている。若手視点から、伝統的な集落営農の非効率性と、行政手続きのアナログな実態を冷静に分析している。

インタビュー

1.高本さんのご状況

──現在の作付面積、品種、家族の関わり方を教えてください。

5反(約5,000㎡)ほどの広さのハウスでピーマンを育てています。もともと家業を継いだわけではなく、農業を営む夫婦のところに弟子のような形で入っているんです。そこでは、お米も育てています。

──高本さんの住まわれている熊本県高森町の集落では、農業を営む人が多いのでしょうか?

私と同じように売るためにピーマンを育てている世帯が多いです。お米も育てているところが多いですが、それは売るというよりも家族で食べる分をまかなっているような状況です。

2. 共同所有の限界:善意に頼る管理の綻び

──農作業で必要になる農機具は高額で、なかなか購入は難しいと聞きました。具体的にはどんな農機具が必要になるのでしょうか?

田植え機やコンバイン(稲刈りの機械)、ユンボ(掘ることができる機械)、管理機(畝を作る機械)などをはじめとして、多くの農機具を使います。

過去、集落では共同の農機具を使おうとしたこともあったそうですが、私の師匠は使ったことはなく、自費で購入していました。集落の中には、高額なコンバインではなくバインダーやハーベスタといった別の機械で代替したり、共同の機械を使ったりしている方もいます。自分たちで買って揃えていることが多いですが、出せる費用の範囲になるので、手で押せるほどのサイズだったりしますね。

──過去共同で使っていたこともある中で、なぜうまくいかなかったのでしょうか?

いくつか 理由がありますが、一つは人によって掃除の丁寧さなど「農機具の使い方」がバラバラなことです。丁寧に使う人は使うけれど、そうではない人もいます。

──使い方の違いが、そのまま「使いたくない」という心理的ハードルになっていると。

高本: そうですね。それに、管理している「親分」的な組合長がいるのですが、誰がいつ何時間使ったか、という記録が全く取られていないんです。もし故障したときに自分のせいにされたら……という怖さもあります。

予約のシステムがあるわけではないので、親分と距離が近くないと頼みづらかったり。親分自身も、それを管理するのはすごく大変なんじゃないかと思いますね。

3. 調整のブラックボックス:天候と予約のジレンマ

──農機具のシェアにおいて、一番調整が難しいのはどんな時ですか。

高本: 稲刈りの時期はみんな一緒なんです。だから、天気が晴れて、コンバインが空いていて、さらに「乾燥機(外注先)」の予約が取れる、という3つの条件が揃わないといけない。

──もし、予約していた日に雨が降ってしまったらどうなるのでしょうか。

高本: 順延ができないんです。次の人の予約が詰まっているので。一回ずれると、次の空きがいつになるか分からない。そのリスクを考えると、ドライなシステムがない今の環境では、無理をしてでも自分の機械を持っている方が安心だ、という結論になってしまいます。

──台数を増やせばいいというわけでもないんですよね。

集落内の軒数が多いわけではないことに加え、一軒あたりにかかる時間もそこまで長くないんです。1年間のうち使うのは10日間ほどの機械がほとんどの中で、シェアであっても増やすのは現実的ではありません。

──昔から農家を営んでいる人と、新規就農者で抱える課題も違うのでしょうか?

私自身は師匠がいるので感じたことはありませんが、やっぱり新規での参入になると農機具を借りるのにも少し遠慮はあると思います。あえて作物を植えるのを遅らせることで、使いたい時期を少しでもずらしていると聞いたこともあります。

ただ、ずらすと言ってもそこまで大幅にはずらせないんですよね。

4. 清掃と品質の壁:一日半の稼働に対する「5万円」の重み

──機械を共同で使う際、他にも物理的な課題はありますか。

高本: 「品種の混じり」ですね。前の人がコシヒカリを刈った後に別の品種を刈ると、どうしても機械の中に米が残っていて混ざってしまう。

今は使った人が使い終わったタイミングで掃除をしていますが、この掃除自体も性格や機械に対する知識の差で、掃除の仕方も変わってしまいます。

──メーカーに掃除を依頼すると、どれくらいのコストがかかるのですか。

高本: メーカーに掃除を頼むのは稲刈りのシーズンが終わった年1回ですが、1回あたり5万円ほどがかかります。徹底的に掃除をしないと、来シーズンまでの間に残っているお米などをエサにネズミが来てしまうんですよね。

来シーズンも問題なく使えるようにメーカーに掃除に出しますが、共同の機械が同様に掃除に出されているのかは分かりません。

5. 行政手続きの非効率:生産性を削る「Wordの壁」

──農機具以外にかかるお金にはどんなものがありますか?

機械だけではなく、ハウスを張るのにもお金がかかります。毎年かかるわけではありませんが、7年ほど経つと張り替える必要がありますね。

ちょうど今年が張り替えのタイミングですが、業者の方にお願いすると一棟あたり10万円から15万円ほどはかかるんです。

今からハウスを建てようと思うと、もう何千万円もかかるそう。骨組みから依頼するのですが、資材の値段が上がっているのに釣られてハウスを建てるお金は膨大ですね。

──補助金などを利用して費用を工面することが多いんですよね。

過去に建てたハウスは、補助金7割・負担3割だったと聞いています。その補助金があったタイミングで一気にみんなたてたらしいです。

──新規就農の補助金(農業経営開始資金など)について、運用面で感じていることはありますか。

高本: 補助金をもらうための半年ごとの報告書が、信じられないほどアナログなんです。作業日誌をWordで出すように指定されているのですが、なぜExcelやスプレッドシートじゃないのか。

午前・午後の作業時間をいちいち手入力しなければなりません。半年分の記憶なんてないので、写真やスケジュールを見返して、膨大な時間をかけて「埋めるための作業」をしています。役場の方は「とりあえず出せばOK」という感じですが、もっと効率化できれば、その分を売上を立てる工夫に回せるのに、と強く感じます。


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