山と農地が隣り合う中山間地域。かつて、鳥獣害対策といえばイノシシやシカから作物を守ることを意味していた。フェンスを張り、電気柵を巡らせ、捕獲檻やくくり罠を仕掛ける。対象となる動物が分かっていれば、対策も設計できた。

しかし現在、農地や生活圏に入ってくるのは一種類の動物だけではない。今回話を聞いた地域では、サル、イノシシ、クマ、アライグマ、アナグマ、タヌキ、キツネなど、多様な野生動物が確認されている。住民によれば、昔と比べて野生動物は増えており、かつてはほとんど見られなかったクマも、現在では姿を見せるようになったという。

一種類を想定してつくられた対策を、複数種が出没する環境で使い続ける。そこで何が起きているのか。現場の実態に迫る。

■ 誰の困りごとか 
中山間地域で農業を営む住民、および鳥獣害対策・捕獲に従事する人。
特に、フェンスや電気柵の維持管理、捕獲檻・くくり罠の日々の見回りを担う人にとって、複数種の出没は深刻な負担となっている。影響は農家個人にとどまらない。
市町村の担当部署、県、警察、猟友会、猟師、集落の維持管理を担う住民など、地域の鳥獣害対策を構成するプレイヤー全体に波及する課題である。
■ どこでの困りごとか
中山間地域の農地と、その周辺の生活圏。山と農地の境界に設置されたフェンス、サル対策の電気柵、イノシシ用の捕獲檻とくくり罠、そして日々の見回り経路まで、一連の対策運用に影響している。特に、対象外の動物が捕獲設備に入った場合には、現場だけで完結せず、市・県・警察・猟友会を巻き込んだ対応が必要になる。
どんな困りごとか
動物の種類ごとに異なる対策を組み合わせ、そのすべてを維持管理し続けなければならないという構造的な負担に直面している。加えて、単一種を想定した捕獲設備に対象外の動物が入ることで、危険な放獣作業や長時間の対応が発生する一方、対策を担う人材そのものが減少している。

課題説明

①「一つの対策では防げない」という構造

この地域では、山と農地の間にフェンスを設置している。イノシシやシカには一定の効果がある。しかし、同じフェンスだけではサルやクマ、アライグマを防ぎきれない。フェンスを越えて農地に侵入してくるためだ。

サルに対しては電気柵も使用されているが、設置すれば終わりではない。周囲の草が接触すると漏電する可能性があるため、草刈りなどを行い、継続して維持管理する必要がある。

つまり、イノシシやシカにはフェンス、サルには電気柵や追い払いというように、動物の特性に合わせて異なる対策を組み合わせなければならない。

問題は、対策の数だけ維持管理の手間が増えることだ。複数種が同じ地域に出没することで、鳥獣害対策そのものが複雑になっている。

②慣れる動物と、効果が薄れていく追い払い

なかでも対応が難しいのがサルだ。

この地域では、一度に50〜60頭ほどの群れが現れることがあり、約10日に1回の頻度でやってくることもあるという。

追い払いには花火が使われている。しかし、繰り返し使用するとサルが慣れ、次第に効果が薄れてしまう。かかしについても、十分な効果は感じられないという。

確実に農作物を守ろうとすれば、野菜を金網などで囲う方法もある。しかし、稲作のような広い農地をすべて囲うには大きな手間がかかる。

捕獲する場合には、さらに大規模な設備が必要になる。地域で使用されているサル用の大型捕獲檻は、一度に約30頭を収容できる一方、価格は70〜80万円程度に上るという。

対策をしても動物が慣れる。別の方法を導入すれば、新たな維持管理や費用が発生する。この繰り返しが、現場の負担を大きくしている。

③最大の負担は「毎日見て回ること」

イノシシについては、捕獲檻やくくり罠を使った対策が行われている。

この地域では、1基約10万円の捕獲檻を約10基、くくり罠を約20個設置し、年間20〜30頭ほどのイノシシを捕獲している。檻が作動すると電波で通知する仕組みもすでに導入されている。

それでも、現場から最も大きな負担として挙げられたのは「毎日見て回ること」だった。

捕獲設備は設置して終わりではない。檻や罠の状態を確認するため、1日1回は現地を見回る必要があるという。

約10基の檻と約20個のくくり罠を継続的に管理する。そのうえ、電気柵の維持やサルの追い払いなども必要になる。

野生動物の種類が増えれば、必要な対策も増える。そして対策が増えるほど、それを管理する人の負担も増えていく。

④イノシシ用の檻にクマ。対象外動物の捕獲が生む危険

複数種が同じ地域に生息することは、捕獲作業にも別の問題を生んでいる。

イノシシを狙って設置した捕獲檻に、対象外であるクマが入ることがある。この地域では年に1回程度起きているという。

クマが捕獲された場合、通常のイノシシ捕獲と同じようには対応できない。市の担当者への報告から県や警察などへの連絡、関係者の現地集合、状況確認などが必要となる。原則として奥山での放獣となるが、人家に近い場合には猟友会による射殺が選択されることもあるという。一連の対応には2〜3時間ほどかかる。

さらに危険なのが、くくり罠にクマがかかった場合だ。クマが激しく動けば、足を捕らえているワイヤーに「キンク」と呼ばれるよれが生じ、切断につながる危険があるという。

イノシシを捕獲するために設置した設備であっても、複数種が生息する地域では何がかかるか分からない。

単一種を想定した捕獲設備を、複数種が出没する環境で運用すること自体が、管理者の追加負担や安全上のリスクにつながっている。

⑤動物は増える一方、対策する人は減っていく

もう一つの問題が、鳥獣害対策を担う人材の減少だ。

現場では、野生動物が増えた背景の一つとして猟師や猟犬の減少が指摘された。過去にクマやシカの捕獲が制限されていたことなども影響しているのではないかと捉えられている。

銃を扱える人や、野生動物を追うことのできる猟犬は鳥獣害対策の重要な担い手だ。しかし猟犬を利用する場合にも、他の飼い犬を襲わないよう管理する必要があるなど、簡単に増やせるものではない。

野生動物が増え、対応しなければならない種類も増えている。その一方で、それらを捕獲・追い払い・管理する側の人間は減少している。

鳥獣害対策の課題は、単に「フェンスや罠が足りない」という問題ではなくなっている。

⑥技術だけでは解決しない。運用と費用という壁

こうした状況の中、インタビューで最も期待が寄せられたのがドローンだった。

一つは、檻や罠の見回りへの活用だ。現在は捕獲を電波で通知する仕組みがあっても、最終的には人が現地まで確認しに行く必要がある。ドローンを活用して遠隔から設備の状態を確認できれば、日々の移動や見回りの負担を軽減できる可能性がある。

もう一つ、特に現場から期待されたのが、犬の鳴き声を利用したサルの追い払いだ。犬の鳴き声を流す装置を一か所に固定して設置する方法では、サルが音に慣れてしまい、次第に効果が薄れるという。そこで、ドローンを移動させながら上空から犬の鳴き声を流す。さらに複数機を動かすことで、実際の猟犬が追いかけてくるような状況を作り、サルを農地から遠ざけるという方法への期待が聞かれた。

犬の鳴き声などを活用して野生動物を追い払うドローンについては、すでに類似する技術や取り組みが存在している。しかし、少なくとも今回取材した地域では、日常の鳥獣害対策として一般的に利用できる状態にはなっていない。

ただし、現場にドローンを渡すだけで問題が解決するわけではない。インタビューでは「操縦する人が必要」という明確な課題も挙げられた。高齢化や人手不足が進む地域で、住民自身が新たにドローンの操作や管理まで担うことになれば、かえって新たな負担を生む可能性もある。

そのため、市役所の職員などが操縦を担う仕組みや、外部事業者が見回り・追い払いまで請け負うサービスなど、機体と運用をセットで考える必要がある。

費用についても、地域だけで負担することには限界がある。現場からは、機器が1機5,000円程度であれば現実的との声が聞かれた一方、集落の維持管理費について国などからの補助を求める声もあった。

誰が機体を購入するのか。誰が操縦するのか。故障したときに誰が管理するのか。そして、毎日の見回りや追い払いをどこまで代替できるのか。

重要なのは、新たな技術をゼロから発明することだけではない。既に存在する技術を、中山間地域で継続的に使える形まで実用化・普及させることにも事業機会がある。

インタビュー協力者

中山間地域で鳥獣害対策に携わる住民

役所定年後65才免許取得。兼業で夏は米作り、冬は罠1 1月から三月まで毎日見回りです。4月から10月は緊急捕獲活動支援事業では箱罠を見回っています。

中山間地域において、フェンスや電気柵の維持管理、イノシシ用の捕獲檻・くくり罠の設置と見回り、サルの追い払いなど、鳥獣害対策の一連の作業に携わっている。

今回の取材では、地域に出没する野生動物の種類、対策ごとの効果と限界、捕獲設備の運用実態、対象外動物が捕獲された際の対応、担い手の減少、現場が求める技術について聞いた。

地域・産業プロフィール

中山間地域では、山と農地が近接しているため、野生動物の侵入を前提とした農業が営まれている。

対策としては、山と農地の境界へのフェンス設置、サル対策の電気柵、イノシシ用の捕獲檻やくくり罠、花火による追い払いなどが組み合わされている。

今回話を聞いた地域では、サル、イノシシ、クマ、アライグマ、アナグマ、タヌキ、キツネなどが確認されており、かつてはほとんど見られなかったクマも現在では姿を見せるようになったという。捕獲や追い払いの担い手である猟師・猟犬は減少している。

インタビュー本文

Q1. まず、この地域にはどのような野生動物が出てきますか。

サル、イノシシ、クマ、アライグマ、アナグマ、タヌキ、キツネなど、いろいろな動物が出ます。

昔と比べると、野生動物は増えていると思います。クマなんて、以前はほとんど見ませんでした。それが今は出てきます。

猟師や猟犬が減ったこともあると思います。それに、以前はクマやシカの捕獲が制限されていた時期もありました。そういうことも関係しているのではないかと感じています。

Q2. どのような対策をしていますか。

山と農地の間にフェンスを設置しています。イノシシやシカにはある程度効きます。

ただ、同じフェンスでも、サルやクマ、アライグマは防ぎきれません。越えて入ってきます。

サルには電気柵も使っています。ただ、これも設置して終わりではありません。周りの草が触れると漏電することがあるので、草刈りをして維持していかないといけない。

結局、イノシシやシカにはフェンス、サルには電気柵や追い払いというように、動物ごとに別の対策を組み合わせることになります。一つの対策だけでは防げません。

Q3. サルへの対応が難しいと聞きました。

サルは群れで来ます。多いときは50〜60頭くらいです。10日に1回くらいの頻度で来ることもあります。

追い払いには花火を使っています。でも、何度も使っているとサルが慣れてしまって、だんだん効かなくなります。かかしも、あまり効いている感じはしません。

確実に守ろうと思えば、野菜を金網で囲うという方法もあります。ただ、稲作のように広い農地を全部囲うのは、手間が大きすぎます。

Q4. サルを捕獲する設備もあるのでしょうか。

サル用の大型の檻があります。一度に30頭くらい入るものです。

ただ、値段が70〜80万円くらいします。

対策をしても動物は慣れる。別の方法を入れれば、また維持管理と費用がかかる。その繰り返しです。

Q5. イノシシに対しては、どのような対策をしていますか。

捕獲檻とくくり罠です。

檻は1基10万円くらいで、10基ほど設置しています。くくり罠は20個くらいです。それで年間20〜30頭くらい捕獲しています。

檻が作動したら電波で知らせてくれる仕組みも入れています。

Q6. 通知の仕組みがあれば、負担は減りませんか。

知らせてはくれますが、最終的には人が見に行かないといけません。

一番大きい負担は、毎日見て回ることです。檻や罠の状態を確認するために、1日1回は現地を回る必要があります。

10基の檻と20個のくくり罠を、ずっと管理し続ける。そのうえで電気柵の維持もあるし、サルの追い払いもある。

動物の種類が増えれば、対策も増えます。対策が増えれば、管理する人の負担も増えていきます。

Q7. イノシシ用の設備に、他の動物が入ることはありますか。

あります。イノシシを狙って設置した檻に、クマが入ることがあります。この地域では、年に1回くらいでしょうか。

クマが入ってしまうと、イノシシのときと同じようには対応できません。

市の担当者に報告して、そこから県や警察などにも連絡が行きます。関係者が現地に集まって、状況を確認します。原則は奥山で放獣しますが、人家に近い場所だと、猟友会が射殺することもあります。

一連の対応で、2〜3時間はかかります。

Q8. くくり罠の場合はどうでしょうか。

くくり罠にクマがかかった場合の方が危険です。

クマが暴れると、足を捕らえているワイヤーに「キンク」と呼ばれるよれができます。それが切断につながる危険があります。

イノシシを捕るために設置した設備でも、いろいろな動物がいる地域では、何がかかるか分かりません。

Q9. 対策を担う人については、どのような状況ですか。

猟師も猟犬も減っています。

銃を扱える人や、動物を追える猟犬は、対策の中心になる存在です。でも、猟犬を使う場合も、他の飼い犬を襲わないように管理しないといけない。簡単に増やせるものではありません。

動物は増えて、対応しなければいけない種類も増えている。その一方で、対応する側の人間は減っています。

Q10. 外部の技術に期待することはありますか。

ドローンです。

一つは、檻や罠の見回りに使えないかということです。今も通知の仕組みはありますが、結局は現地まで行かないと分かりません。遠くから設備の状態を確認できれば、移動や見回りの負担はかなり減ると思います。

Q11. 追い払いにも使えそうでしょうか。

犬の鳴き声を使ったサルの追い払いに期待しています。

犬の鳴き声を流す装置を一か所に固定して置く方法だと、サルが音に慣れてしまって、だんだん効かなくなります。

それをドローンで動かしながら、上空から流す。何機か飛ばせば、本物の猟犬が追いかけてくるような状況を作れるのではないかと思います。そうすればサルを農地から遠ざけられるかもしれません。

Q12. 導入にあたって、心配な点はありますか。

操縦する人が必要だということです。

地域は高齢化していますし、人手も足りません。住民が新しくドローンの操作や管理まで覚えて担うとなれば、かえって負担が増えるかもしれません。

市役所の職員が操縦してくれる仕組みだとか、外部の事業者が見回りや追い払いまでやってくれるサービスだとか、機械と運用をセットで考えてもらえるといいと思います。

Q13. 費用面についてはどうでしょうか。

1機5,000円くらいであれば現実的だと思います。

ただ、集落の維持管理にかかる費用については、国などから補助してもらえるとありがたいです。地域だけで負担するには限界があります。

Q14. これから、どのような仕組みが必要だと思いますか。

イノシシやシカにはフェンス、サルには電気柵や追い払い、イノシシの捕獲には檻やくくり罠。今はそうやって対策を積み上げています。

でも、フェンスを越える動物がいて、追い払いに慣れる動物がいて、イノシシ用の罠にはクマがかかる。そのすべてに人が対応し続けなければいけません。

必要なのは、特定の一種類の動物だけを対象にした新しい道具ではないと思います。複数の動物が出てくることを前提にして、今あるフェンスや罠と、ドローンなどの監視・追い払いを組み合わせて、少ない人数でも回せる仕組みです。

犬の鳴き声を使ったドローンのように、技術の種はもうあります。それを実証で終わらせずに、安くして、操縦する人を確保して、自治体や地域が使い続けられるサービスにできるかどうか。そこが一番大事だと思います。