・サメによる食害や養殖いけすの破損が、鹿児島県の漁業現場で長年「仕方ないもの」として半ば諦められている。
・直接的な食害だけでなく、サメを避けるために操業を諦めたり、ポイントを探し回ったりする燃料代・時間のロスが、見えにくい損失として漁師の経営を圧迫している。
・駆除は物理的にも経済的にも難しく、現場が求めているのは、サメを単なる厄介者として扱うのではなく、未利用資源として価値化する出口づくりである。

2024年、令和6年頃には錦江湾の養殖いけすが破損する被害がニュースとなった。しかし、今なお抜本的な対策は進んでいない。

鹿児島県の漁業現場で、長年「仕方ないもの」として半ば諦められている問題がある。サメによる被害だ。

なぜ、これほどの被害がありながら「手つかず」のままなのか。鹿児島県水産技術開発センターの堀江昌弘氏、湯ノ口亮氏へのヒアリングから、現場のリアルな実情が見えてきた。

■ 誰の困りごとか 
サメによる食害や養殖いけすの破損が発生しているにもかかわらず、現場では「狙われたら終わり」と半ば諦められており、抜本的な対策が進んでいない。
■どこでの困りごとか
鹿児島県・錦江湾周辺の漁業現場。
特に、錦江湾内の養殖いけすや、湾内外で一本釣りを行う漁船漁業の現場で発生している困りごと。サメによる養殖網の破損、魚の食害、操業断念による燃料代・時間のロスが問題になっている。
■ どんな困りごとか
サメは湾内でも100kg級、外海では300〜500kgに達する個体もおり、普通の漁船の装備では安全に捕獲・引き揚げることが難しい。さらに、獲ってもアンモニア臭の処理や加工コストがかかり、市場価値が見合わないため、駆除のインセンティブが生まれにくい。

A large shark swimming in a large body of water
Photo by Willian Justen de Vasconcellos / Unsplash

※写真はイメージです

インタビュー

1. 「狙われたら終わり」という現場の諦め

「結局、サメが出たらその日の操業は諦めるしかないんです」

現場を覆っているのは、こうした無力感だ。一本釣りで釣った魚が、水面まで引き上げる間にサメに食われる。一度サメが居着いてしまえば、そのポイントで粘るだけ燃料と時間の無駄になる。

  • 目に見えない損失: 直接的な食害だけでなく、サメを避けるためにポイントを探し回る燃料代のロスが、漁師の経営を静かに圧迫している。
  • 養殖現場の「やり過ごし」: 令和6年にはいけすが破られ、数千万円規模の損害が出た事例もあったが、現在の対策は「古い網を二重にする」といった現場の知恵による自衛策に留まっている。

2. 駆除という選択肢が消える「物理と経済」の壁

被害があるなら駆除すればいい、という単純な話ではない。そこには、現場が「仕方ない」と口にする明確な理由がある。

まず、サメはあまりに巨大だ。湾内でも100kg級、外海では300〜500kgに達する個体もいる。 「普通の漁船の装備では、かかっても揚げられないし、危険すぎる。わざわざ命をかけてまで獲る理由がないんです」と湯ノ口氏は語る。

さらに追い打ちをかけるのが、サメ特有の「アンモニア臭」だ。食用にするには徹底した鮮度管理と、膨大な水を使った水さらしが必要になる。加工コストが市場価値を上回ってしまう現状では、サメは「獲るだけ赤字」の存在でしかない。


2 dolphins in the sea
Photo by Jason Leung / Unsplash

3. 【Q&A】なぜ対策は進まないのか? 現場のリアルな声

Q:サメによる被害は、具体的にどれくらい深刻なのでしょうか?

湯ノ口: 令和6年には養殖いけすの網が破られ、中の魚が逃げ出す被害が目立ちました。一箇所で約2,200匹、金額にして2,000万円近い損失が出た例もあります。ただ、一本釣りなどの漁船漁業ではもっと日常的です。釣った魚を横取りされるだけでなく、サメがいるからと創業を諦めて移動する際の燃料代や時間のロスといった「見えない被害」の方が、実は深刻かもしれません。

Q:被害が増えているというデータはあるのでしょうか?

湯ノ口: 具体的な数字はないんです。サメは漁獲対象ではないため、公式な調査がほとんど行われていません。ただ、聞き取りでは「増えている」と答える漁業者が多い。水温上昇の影響でサメの活動期間が延び、被害が表面化しやすくなっている面はあると思います。

Q:積極的に駆除する動きはないのですか?

堀江: 難しいですね。サメは300kgや500kgといったサイズになりますから、普通の漁師さんが格闘して船に揚げるのは現実的ではありません。また、獲ったところで売れないんです。アンモニア臭を抜く手間とコストを考えると、誰も好んで獲りたがりません。

Q:行政などは動いていないのでしょうか?

堀江: 全国的、あるいは国全体の問題として扱われにくいのが現状です。沖縄や鹿児島の離島、静岡の一部など、被害が出る場所が限られているため、なかなか大きな予算がついたプロジェクトになりにくい。結局、現場が自分たちで網を二重にするなどの工夫をして「やり過ごしている」のが実情です。

Q:もしサメに「価値」がつけば、状況は変わりますか?

湯ノ口: それが一番の解決策だと思います。たとえ安くても、買い取ってくれる出口さえあれば、定置網にかかった個体を持ち帰るインセンティブが生まれます。サメ自体は高タンパク・低脂肪で、栄養価は非常に高い。食材以外の用途も含めて、利用価値さえ見出せれば、現場の「仕方ない」という空気は変わっていくはずです。


編集後記 「サメは怖い」というイメージ以上に、現場を覆っているのは「どうしようもなさ」という冷めた空気だった。しかし、誰もが諦めているからこそ、そこには未利用資源としての「大きな余白」が残されている。