漁業に欠かせない「漁網」。その裏で、大量の漁具が処分に困り、捨てられている現状をご存知でしょうか。
宮城県気仙沼市のスタートアップである「amu」は、廃漁具を漁師から買い取り、高品質な洋服やサングラスへと生まれ変わらせています。
「環境にいいのは当たり前。それ以上に漁師たちのストーリーを伝えたい」。ユニークな視点でアップサイクル事業に取り組むamu代表の加藤さんにお話をお聞きしました。
amu 株式会社 代表取締役CEO 加藤 広大(かとう こうだい)
1997年生まれ、神奈川県小田原市出身。二松学舎大学文学部在学中、授業の一環で初めて宮城県気仙沼市に訪問。その後、株式会社サイバーエージェントに入社し、ネット番組のプロデューサーを経験。2019年、気仙沼市に移住後、廃漁網アップサイクルに興味をもち、2023年5月amu株式会社を設立。2025年、アジアで活躍する30歳未満のリーダー「Forbes 30 Under 30 Asia 2025」に選出。
「マグロ漁師のストーリーを届けたい」が原点だった
――amuは「廃漁具のアップサイクル」を行っていますが、このビジネスに着目されたきっかけから教えてください。

よく環境問題に興味があると思われるんですが、実は違っていて。
気仙沼で出会ったマグロ漁師さんの話が、とにかく面白かったんですよ。この道50年という船頭さんで、何十人もの漁師さんをまとめて世界中の海を航海しているんです。
漁業の世界にはこういうすごいストーリーがたくさんあって、それをもっとたくさんの人に知ってもらいたいというところから(漁業に関するビジネスである)amuを始めました。
ーーアップサイクルに興味があったのではなく、漁師さんたちのストーリーを伝えたかったんですね。
そうですね。「漁師さんのストーリーを発信する」なら、漁具はすごく最適なツールだなと思ったんです。
漁具のなかでも、特に「漁網」は数年で使えなくなります。しかも、いまの日本ではほとんどリサイクルがされておらず、廃棄にお金がかかってしまう。

漁業の現場では漁網の廃棄処理に困るという課題があるという。
漁業を支えるもっとも基本的な道具なのに、持て余される「漁網」を通して、漁業のストーリーを伝えられたらと思いました。
――実際のビジネスモデルについてお聞きしたいです。廃漁具はどのように回収しているのでしょうか?
全国の漁師さんから直接買い取っています。
創業当初は、気仙沼の知人から漁師さんを紹介してもらっていたんです。気仙沼のように漁業が盛んな港町では、親族に漁師がいる方、水産会社の社長の知り合いがいる方が珍しくないんですね。
そういう伝手を頼って、少しずつ漁師さんとのネットワークを広げていきました。
いまでは、各地の漁業関連の組合さんや興味を持ってくれた漁師さんからの問い合わせを通じて、北海道から沖縄までネットワークを拡大させています。

――現場での回収における課題をお聞きしたいです。
一番難しいのは、リサイクルに適した素材を引き取ることですね。
引き取るといっても、なんでも回収できるわけではありません。私たちは「ナイロン6」という特定の素材を中心に回収しているんです。
しかし、現場では網やロープ、プラスチックなどいろんな素材が混ざっています。そのままではリサイクルができなかったり、品質がさがるため、分別しないといけないんです。

廃漁具から生まれた「漁師さんが使えるサコッシュ」
――回収した廃漁具は、どのような商品へ生まれ変わるのでしょうか?
大きくわけて2種で、ひとつが繊維にリサイクルした素材から作る布やアパレル製品、もうひとつがペレット化して作る成形品です。
成形品の例としてはサングラスがあります。鯖江の職人技で仕上げるサングラスは軽量で品質が高く、人気の高いアイテムとなっています。

ーー製造する商品はどうやって決めているのでしょうか?
「この素材から作れるものは何か」「求められている商品はなにか」から考えることが多いですが、地元の漁師さんが使えるものを作ることもあります。
サコッシュはそのいい例ですね。漁終わりにそのまま飲みに出かける漁師さんが多いんですけど、カバンがないから荷物を膝においてお酒を飲んでいるんです。
そんな漁師さんが使いやすいカバンを作れないかと思い、生まれたのが漁具からできたサコッシュです。

――購入されるのはどういうお客様が多いですか?
個人のお客様だと、サーファーや釣り人といった海を愛する方、さらには「気仙沼の漁具から生まれた」という地域性に惹かれる方が多いです。
企業の場合は、素材の透明性を評価してくださることが多いですね。「もともとどの地域で使われていたか」がわかるリサイクル素材はなかなかないんです。
なので、そういった地域性に魅力を感じてもらうことが多いです。
「渋谷でできないことをやる」のが最大の強みに
――経歴についてもお伺いしたいです。加藤さんはもともと起業を志していたのでしょうか。

そうですね。
学生時代から興味があり、スタートアップ関係者にお会いしたり、話を聞いたりしていました。
ーー都心以外を拠点とするスタートアップは珍しいと感じますが、きっかけはなんだったのでしょうか?
大学1年生のときに気仙沼に来て、その熱気に驚いたんです。
当時の気仙沼は「震災復興」から「地方創生」に移行する時期でした。がれきの片付けや建物の修復が終わり、コミュニティ活性化などソフト面の復興が始まっていた時期だったんです。
すごく熱気がある現場で、聞く話もおもしろく、ローカル×スタートアップの可能性を確信してamuを立ち上げました。
――気仙沼発のスタートアップとして心がけていることはありますか?
「渋谷じゃできないことをやる」という点に尽きます。
都市部と同じビジネスを地方でやっても勝てないと思うんです。
地域にしかない切実な課題を取り上げ、現場で素材で向き合うことが、地方で起業する最大の強みになると思います。

――今後、amuとして実現したいことを教えてください。
私たちは「amucaⓇ」というamuの素材を使ったブランドを立ち上げています。これを、高品質で息が長いブランドに育てていくことが目下のやりたいことですね。

それから、漁業はもともと食に関するものなので食に関する商品もそろえていきたいですね。調理用のエプロン、飲食店向けの商材などにも挑戦していきたいです。
あとは、海、漁業、地域、環境…amucaⓇはさまざまな要素を内包しているからこそ、どんな企業でも使える法人向けユニフォームの展開にも力を入れていきたいです。
――最後に、地域課題の解決を目指す起業家へメッセージをお願いします。
「地方は課題だらけ」とも言われますが、起業するならばそうした地方の課題をできるだけポジティブにとらえることが大事だと感じます。
課題をただ深刻に受け止めるのではなく、「ここをこう変えたらもっと面白くなる」「この素材にはこんな可能性がある」という前向きな視点を持つことで仲間も集まるし、自分自身も
飽きることなくビジネスに取り組めると思います。
希望を持って、楽しく課題に向き合って欲しいですね。

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地方の課題に取り組む様々な起業家やスタートアップの成功事例をご紹介しています。ぜひご覧ください。
