西ノ島を訪れる観光客、例えば個人旅行者、若い世代の旅行者、女子旅・カップル旅行者、電話での確認を避けたい層が主な当事者である。
加えて、観光客からの問い合わせ対応を担う観光協会、営業情報を都度発信しきれない飲食店、高齢化した店舗運営者、観光体験全体の満足度を高めたい地域側も、間接的な当事者となっている。
島根県隠岐郡西ノ島町。港、観光地、飲食店、バス移動の導線上で発生している。
特に、摩天崖などの観光地を訪れたあとに昼食を探す場面、フェリー到着後に昼食を探す場面、夜に宿以外で食事をしようとする場面で顕在化している。
飲食店の数が限られ、移動手段も少ない離島観光地において、観光客が「今日営業しているか」「今入れるか」「売り切れていないか」を事前に信頼できる形で把握できず、食事機会を失っている。
これは単なる情報更新の遅れではなく、観光体験、地域消費、店舗運営、デジタル対応、移動制約が接続されていないことによる構造的な課題である。
課題説明
①店舗数が少ないからこそ、1軒の情報ズレが致命傷になる
西ノ島には、昼食を取れる店がまったくないわけではない。インタビューでは、ラーメン店、定食店、カフェ、鮮魚店などを含めて「6〜7軒ぐらいはある」と語られている。
しかし、問題は“あるように見える”ことと“実際にその時間に食べられる”ことの間に大きなズレがある点だ。
観光サイトやGoogleマップには店舗情報が並ぶ。だが、実際には日曜・月曜・火曜など曜日によって休みが重なったり、不定休だったり、売り切れ次第終了だったりする。結果として、観光客は画面上では選択肢があるように見えても、現地では食べられない。
都市部なら1軒閉まっていても、隣の店に入ればいい。だが離島では、次の店まで距離がある。バスの本数も限られ、レンタカーも潤沢ではない。1軒の営業情報のズレが、観光体験全体の失敗につながる。
ここに、リアルタイム営業情報を集約する仕組みや、観光ルートと飲食可否を連動させるサービスの余地がある。
②「島らしいもの」を食べられる場所が限られている
観光客が求めるのは、単に空腹を満たすことだけではない。せっかく島まで来たなら、魚や海の幸など「その土地らしいもの」を食べたい。
しかし現場の感覚では、西ノ島で昼に“島らしい食事”を食べられる選択肢は非常に限られている。
「島らしいのが食べれるのが、多分昼間はかなり少なさそう」「島まで来てパン? 可哀想すぎる」
もちろん、パンや弁当が悪いわけではない。だが、観光客が期待する体験と、実際に提供できる食事体験の間にギャップがある。
しかも、海鮮を提供できる店が限られているうえに、売り切れ次第終了となると、観光客にとってはかなり不確実性が高い。フェリーの到着時間が12時過ぎであるが、その時間には海鮮のランチには間に合わない可能性が高い。
この課題は、飲食店単体では解けない。仕入れ、在庫、観光客数、フェリー時刻、移動手段、予約・事前注文まで含めた設計が必要になる。スタートアップにとっては、事前予約型のローカルフード体験、観光客向け弁当・ミールキット、宿・飲食店・交通をつなぐ需要予測サービスなど、複数の切り口が考えられる。
③Googleマップも観光サイトもあるのに、情報が信頼できない
この課題の厄介さは、情報がまったく存在しないことではない。むしろ、Googleマップ、観光協会サイト、地域のInstagram、店舗情報ページなど、情報の入口は複数ある。
それでも解決されていない。
「Googleマップもインスタも食べログも、観光協会のサイトも、手段としてはあるはずなのに解決されない」「情報がないんじゃなくて、情報がまだ間違ってる」
ここに、既存プラットフォームの限界がある。
Googleマップは汎用的で便利だが、離島の小規模店舗の“不定休”“雨の日は休む”“売り切れたら終わり”“病院に行くから閉める”といった柔らかい営業実態を拾いきれない。観光サイトも、店舗情報としては整って見えるが、リアルタイム性には弱い。
さらに、観光客は「綺麗なホームページに載っているなら、情報も正しいだろう」と思ってしまう。情報の見た目が整っているほど、期待値は上がる。だが現地の実態が伴っていないと、失望は大きくなる。これは観光DXにおける重要な示唆である。デザインされた情報よりも、現場で使える情報が求められている。
④店舗側に“更新し続ける余力”がない
では、飲食店が毎日GoogleマップやInstagramを更新すればよいのか。理屈としてはそうだが、現場では簡単ではない。
店舗運営者の高齢化、少人数運営、デジタルツールへの不慣れ、接客・仕込み・営業で手一杯という状況がある。
「店舗側が情報更新できないのは、高齢化でデジタルの更新は無理だから」「SNS上げて、Google更新して、みたいなのは大変」
観光客側はスマホで完結したい。だが事業者側は、スマホでリアルタイム更新する前提で動いていない。この非対称性が、課題の中心にある。
音声入力、電話代行、LINE連携、紙の掲示板、観光協会の管理画面、AIによる営業時間更新など、技術とアナログ運用を組み合わせる余地がある。
重要なのは、店舗に新しい負担をかけないことだ。スタートアップが入るなら「店主が毎日アプリを開く」前提ではなく、「電話一本」「音声だけ」「代理入力」「観光協会がまとめて更新」といった、現場に合った導線設計が必要になる。
⑤観光客の移動制約まで含めないと、本当の解決にならない
飲食店情報だけが正確でも、観光客がそこに行けなければ意味がない。
西ノ島では、レンタカーの台数が限られている。インタビューでは「レンタカーが30個」という話が出ている一方、ゴールデンウィークには「小さいバスに1日300人乗った」というエピソードも語られた。
「バスで行って、空いてなかったら次の移動何分後だよっていう」「雨の日とかも余計大変で。」
つまり、観光客に必要なのは「営業している店のリスト」だけではない。
今いる場所から行けるのか。バスで行った場合、帰れるのか。雨でも移動できるのか。フェリーの到着時間に間に合うのか。子連れや高齢者でも行けるのか。そうした判断材料が必要になる。
「このバスで行ったら、このバスで帰れるとかぐらいまでわかればベストだよね」
飲食情報、交通情報、混雑情報、在庫情報がバラバラに存在していること自体が課題である。ここには、観光地向けの行程最適化、ローカルMaaS、飲食予約、混雑・売り切れ通知を組み合わせたサービスの可能性がある。
武田梢さん
島根県隠岐諸島・西ノ島在住の生活者。西ノ島の飲食店事情、観光客の行動、島内の移動手段、地域の情報発信状況について、日常的な実感をもとに語った。
今回のインタビューでは、観光客が昼食や夕食の選択肢に困る場面、Googleマップや観光サイトの情報と実態のズレ、店舗側のデジタル更新負担、観光協会や地域SNSの情報発信の現状について共有した。
インタビュー
「お昼ご飯を食べる場所がない」観光を止めてしまう要因。
── まず、西ノ島の観光客は食事まわりでどんな状況に置かれているのでしょうか。
基本的に、島に来る観光客の人は、お昼ごはんで困ることが多いと思います。西ノ島にも食べられる場所がゼロなわけではなくて、6〜7軒ぐらいはあるんです。でも、日曜にやっていない店があったり、月曜や火曜に休みが重なったりして、実際にその日に行ける選択肢はかなり減ります。
観光客はGoogleマップとか、観光協会のサイトとかを見てお昼ご飯を食べる場所を選んでいます。でも、そこでは営業しているように見えても、行ってみたら閉まっていることがある。島らしいものを食べられる場所は限られていて、特にお昼になると選択肢が本当に少ないです。
夜は夜で、20時以降は予約の店以外ほとんどありません。前にご飯を食べているところに突然来た観光客がいて、「どこもやってなくて」と困った様子だったんです。夜に何もやってないとなると、お腹が減ったら終わりですよね。
── 観光客が特に困るのは、どんなタイミングですか。
たとえば摩天崖(景勝地)とかを見に行って、降りてきて「じゃあ昼ごはん食べようか」となった時に、目当ての店がやっていない。そこで次の店を調べて、また行ってみて、また閉まっている、みたいなことが起こります。結局、行ってみないとわからないんです。
船の時間もあります。朝便が着くのが12時過ぎだと、そこから昼ごはんを食べようとしても、人気の店にはもう間に合わないかもしれない。西崎鮮魚店みたいに11時から13時と書いてあっても、実際には11時から12時ぐらいの感覚だったり、売り切れたら終わりだったりするんですよね。
しかも、島では移動が簡単じゃないんです。レンタカーは限られているし、バスも本数が多いわけではない。バスで行って、空いてなかったら、次の移動どうするの、何分後なの、という話になる。雨の日はさらに大変です。
情報がないわけではなく、更新がされていない。その日のことを記すべは、「行く」以外にない。
── そもそも、なぜ情報がズレてしまうのでしょうか。
店舗側が毎日情報を更新できないんだと思います。高齢の方がやっている店も多いし、Googleマップを自分で更新している感じではない。そもそもGoogleマップを見ているのかもわからない。
更新する場所が多すぎることも大変ですよね。Googleマップ、Instagram、観光協会のサイト、食べログみたいなものもある。営業して、仕込みして、接客して、そのうえで全部更新して、というのはかなり大変だと思います。
考えてみると、情報がないわけじゃないんです。むしろ、ホームページもきれいだし、情報は出ている。でも、その情報が今の営業実態と合っているかというと、合っていないことがある。だから困るんです。
── 島内の人は、同じように困らないのでしょうか。
島内の人は知っているから、あまり困らないんだと思います。電話するんですよ。「今日やってますか」「まだありますか」って。閉まるのが早い店には、行く前に電話するのが普通です。
でも観光客は、観光地だから行けば開いていると思って来ますよね。Googleマップを信じるのが当たり前だし、いちいち電話で確認する感覚もないと思います。
特に若い世代は電話が嫌だと思います。私も電話で確認するの、かなり嫌です。LINEとかで済ませたい。でも、事業者側はおじいちゃんおばあちゃんだったりするので、スマホで更新してとか、LINEで即返信してとかは難しい。このズレが大きいと思います。
── 今まで、地域側ではどんな対応がされてきたのでしょうか。
ゴールデンウィークの時期などは、Instagramで「どこが開いています」「ここは休みです」みたいな情報が出ていたことがあります。クラゲ堂(島内の飲食店の一つ)が、他のお店の営業情報までまとめてくれていたらしいですね。
西ノ島観光協会や西ノ島のオフィシャルアカウントもあって、ストーリーで飲食店のお休み情報が出ている時もあります。だから、まったく何もしていないわけではないんです。むしろ、あと一歩という感じはあります。
ただ、情報発信の主体がバラバラです。西ノ島オフィシャル、観光協会、地域おこし系のアカウント、個別店舗のInstagramがあって、どこを見ればいいのかがわからない。人材も少ないのに、広報が分散している感じはあります。
── その対策の限界はどこにありますか。
Instagramのストーリーで出してくれるのは助かるけど、観光客がそこにたどり着けるかは別問題です。旅行前にフォローしていない人も多いと思いますし、島に着いてから困って検索しても、最新のストーリーに気づけるとは限らない。
あと、営業しているかどうかだけでなく、「今から入れるか」「売り切れていないか」が大事なんです。売り切れたら終わりの店の場合、朝に営業予定と出ていても、昼にはもう終わっているかもしれない。そこが見えない。
本当は、売り切れましたとか、今日は休みますとかが、港の掲示板に出るだけでも全然違うと思います。スマホだけでなく、港や観光案内所で見られる情報でもいい。とにかく、行く前にわかることが大事です。
来るかもしれなかったお客さんが見えれば、売上増加も目指せるかもしれない。
── 数値化・可視化できていないものは何だと思いますか。
「本当はその店に行きたかったけど、行けなかった人」の数は見えていないと思います。観光客が店の前まで行って閉まっていて、諦めて帰ったとしても、そのデータは残らないですよね。
「昼ごはんを食べられなかった人」「パンや弁当で済ませた人」「島らしいものを食べたかったけど食べられなかった人」も見えていない。去年の夏も、結局弁当やパンになった人が多かったと聞きました。島まで来てパン、というのは、やっぱりかわいそうだなと思います。
需要が見えれば、「この時期だけ人を増やそう」とか「この時間だけ弁当を出そう」とか考えられるかもしれない。でも今は、機会損失が数字になっていない。だから課題として認識されにくいのかもしれません。
── コストや市場性の面では、どんな構造がありますか。
観光客は確実にいます。ゴールデンウィークには、バスの運転手さんが「小さいバスに1日300人乗った」と言っていました。レンタカーも30台ぐらいあると聞いたけど、それでも足りない時期がある。
でも、その観光客がちゃんと島でお金を使えているかというと、食事のところでこぼれている可能性があります。ごはんを食べられないと、その分の消費も落ちるし、体験としても悪くなる。観光で売るなら、一番満たした方がいいところだと思います。
ただ、店舗側が急に席数を増やしたり、営業時間を伸ばしたりするのは難しいと思います。人手もないし、食材も限られる。だから単純に「もっと営業してください」では解決しない。需要を見える化して、無理のない範囲で受けられる仕組みが必要なんだと思います。
── このまま放置すると、何が起きると思いますか。
観光客の体験が悪くなると思います。せっかく景色がよくても、「昼ごはんを食べられなかった」という記憶が残ってしまう。
若い世代は電話確認を嫌がるので、情報が見えない観光地は選ばれにくくなるかもしれません。逆に、情報がちゃんと見えるだけで、安心して来られる人は増えると思います。
なるべくお店の人が簡単に更新できる仕組みに。
── 外部の起業家や技術に期待するとしたら、何がありますか。
お店の人が簡単に更新できる仕組みがあるといいです。アプリを開いて細かく入力するのではなく、しゃべったら更新されるとか、電話したら誰かが反映してくれるとか。そのくらい簡単じゃないと続かないと思います。
観光客側は、電話せずにわかることが大事です。今日営業しているのか、今入れるのか、売り切れていないのか、現金だけなのか、どのバスで行って帰れるのか。それがまとまっていると助かります。
公式LINEみたいなものでもいいと思います。観光客はLINEで聞けて、裏側ではお店に電話で確認してくれるとかでもいい。お店側と観光客側で、使いやすい手段が違うので、そこをつないでほしいです。
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