事務局調査補足

■ 畦道の草刈り省力化は、農業課題としても注目!
https://smartagri-jp.com/management/13107

■ 草刈り中の事故にも注意を払う必要性
https://himi.ja-toyama.jp/doc/suito/keihankanri.pdf

■ 誰の困りごとか 
中山間地の棚田で米づくりに関わる農家、家族、手伝いに入る子世代・若手。今回のインタビューでは、棚田の米づくりを手伝う若い担い手が、ベテラン農家とともに法面の草刈りを行っている。高齢化が進むなか、今はできている作業が、数年後にはできなくなるかもしれないという不安がある。
■ どこでの困りごとか
棚田や中山間地の田んぼ。特に、田んぼと田んぼの高低差で生まれる「法面」と呼ばれる斜面。田んぼは一カ所にまとまっておらず、家の周辺や車で5分以内の範囲に点在し、畑も含めると8〜9カ所を回る必要がある。
■ どんな困りごとか
棚田の品質や景観を守るためには法面を維持し続ける必要があるが、その草刈りは高齢化した担い手の身体能力に依存しており、既存の大型機械や農業法人の仕組みが届きにくい。収益性の低い自家用・小規模農業ほど、最も危険で負荷の高い作業を人力で抱え続けている。

課題説明

①「田んぼ」ではなく「田んぼの周辺」が重い

棚田の草刈りは、平らな面を刈る作業ではない。米が植わる田んぼの周囲には畔があり、そのさらに外側、田んぼ同士の高低差部分に法面がある。棚田ではこの法面が多く、場所によっては高さが3メートルを超える。

現場では、まず下の田んぼ側から刈払機を伸ばして刈る。次に上からも下に向けて刈る。それでも真ん中に刈り残しが出ると、斜面に足をかけて、少しずつ移動しながら刈るしかない。

平地の草刈りなら、押して進む機械や自走式の草刈機も選択肢になる。しかし、法面は傾斜があり、足場も不安定で、田んぼに水が入った後は下側から作業する人の足元がぬかるむ。長靴では足を取られるため、田植え靴を履いて田んぼの中を歩く。それでも普通の地面を歩くのとはまったく違う負荷がかかる。

現場の感覚では、畔よりも法面の面積のほうが多いのではないか、という。米を育てる面積の外側に、実は膨大な維持管理面積が隠れている。

スタートアップにとっての論点はここにある。農業の効率化というと、田植え、収穫、水管理、販路改善に目が向きがちだ。しかし、中山間地では「生産の周辺作業」こそがボトルネックになっている。

②年6〜7回。草刈りは“季節作業”ではなく、繰り返し発生する運用コスト

草刈りは一度やれば終わりではない。田植え前の4月に始まり、5月、6月、7月、8月、9月と、少なくとも月に1回。年6〜7回は必要になる。

暑くなるほど草の伸びは早くなる。気候変動の影響かどうかを現場で断定するのは難しいが、「この暑さの影響で草が早いんじゃないか」という実感がある。草刈りが終わったと思っても、すべての場所を一巡する頃には、最初に刈った場所がまた伸びている。

しかも田んぼは一カ所にまとまっていない。Aの場所、Bの場所、Cの場所があり、家の周りに歩いて行ける田んぼもあれば、車で移動する場所もある。畑も含めると8〜9カ所。作業は「今日はBだけ」「次はC」というように分割される。1カ所あたりは午前中で終わることもあるが、すべてを合計すれば相当な時間になる。

日程調整も単純ではない。娘さんや息子さんが帰ってこられる日、市場が休みでピーマン出荷など他の作業が少ない曜日、天気、暑さ。草刈りは、農業全体のスケジュールの隙間に押し込まれている。

ここには、作業の自動化だけでなく、分散圃場のメンテナンス計画、作業負荷の見える化、共同作業のマッチング、季節労働の最適化といった事業機会がある。草刈りは単発の作業ではなく、毎年、毎月、地域全体で発生する運用コストなのだ。

③草を放置できない理由は、見た目ではなく「獣害」と「病気」

草刈りは景観維持のためだけではない。放置すれば、直接的に米づくりのリスクになる。

一つは電気柵だ。中山間地ではイノシシやシカ対策として電気牧柵を張る。しかし、草が電線に触れると電気の効きが悪くなる。せっかく設置した獣害対策が機能しなくなるため、草は「電気柵に当たる前」に刈らなければならない。

もう一つは病気だ。すべての草が原因ではないが、草を伸ばしておくと、米のいもち病にかかりやすくなると言われている。つまり草刈りは、収量や品質を守るための予防作業でもある。

この構造が難しいのは、草刈りの価値が見えにくいことだ。草を刈ったから売上が増える、というより、刈らなかったときの損失を防ぐ作業である。獣害を防ぐ、病気を防ぐ、電気柵を効かせる、近隣に迷惑をかけない。必要性は高いが、直接の収益には見えにくい。

スタートアップが参入するなら、「草刈りを楽にする」だけでなく、「草刈りをしないことで発生する損失」を可視化することが重要になる。獣害リスク、病害リスク、作業時間、外注費、家族労働、圃場ごとの優先順位をデータ化できれば、支払い意思の設計にもつながる。

④既存技術はあるが、棚田の条件に合いきっていない

現場で使われている主な道具は刈払機だ。肩にかけるタイプや、リュックのように背負うタイプがあり、背負うタイプのほうが高いところまで届きやすいという実感もある。刈払機本体はメーカー品で6〜7万円程度。自家用に近い小規模農家でも、効果が明確で安全なら、同程度の価格帯であれば購入可能性はある。

一方で、押して進むタイプの草刈機やラジコン草刈機は、法面では使える場所が限られる。畔なら使えても、急な斜面や細かく分断された棚田には適応しにくい。防草シートも、必要量が多く、張る作業や張り替えが大変だ。「田んぼの面積より法面とか畔の面積のほうが多いんじゃないか」という感覚の現場では、シートを全面に張るのは現実的ではない。

草刈り刃にも課題がある。石が多いため、刃がすぐ欠ける。4〜5回使うと替えることもあり、年間で10枚程度使う。刃は5枚で2,000〜3,000円、一枚400〜500円ほど。大きな金額ではないが、交換の手間、切れ味低下による効率悪化、廃棄の問題が積み重なる。

紐タイプの刈払機もある。石や電気柵の支柱に当たってもダメージが少なく、草を細かく粉砕でき、次の伸びを抑えられる感覚もある。ただし、草が細かく飛び散り、服にこびりつく。刃と紐の付け替えが面倒、専用部品を持っていない、長い草には刃のほうが向いているなど、使い分けの手間が導入障壁になる。

ここには、既存機器のアタッチメント化、長尺化、安全制御、刃と紐のワンタッチ切替、防護服、斜面用足場、レンタル、共同利用など、細かな改善余地が多い。大規模なロボットよりも、まずは「今持っている機械を少し拡張する」ほうが現場には入りやすいかもしれない。

⑤土地改良すれば効率化できる。でも、それでは守りたい価値が壊れる

根本的な解決策として、棚田を平らにする土地改良や区画整理がある。法面を減らし、大きな機械が入りやすい圃場にすれば、作業効率は上がる。

しかし、現場には強い抵抗感がある。土を入れ替えたり、地形を変えたりすると、元の味に戻るまで10年、15年かかると聞いているからだ。そもそも戻る保証もない。棚田だからこそ、おいしい米ができている。その土地の土、水、地形、環境が味をつくっている。

効率化と品質保持が衝突している。ここがこの課題の本質である。

農業法人への集約も選択肢として語られる。高齢農家のなかには、荒れるよりは法人に貸したいと考える人もいる。しかし、法人の機械は大きく、中山間地の小さな畑や狭い道には入れないことが多い。大きい道沿いの広めの畑なら借りられても、山あいの細かい土地までは手が届かない。

つまり、既存の効率化モデルは「大きく、平らで、まとまった土地」に最適化されている。一方で、今回の課題は「小さく、急で、分散した土地」に残っている。ここに、次の農業スタートアップの余白がある。


高本亜梨紗さん

中山間地の棚田で米づくりに関わる若い担い手。ベテラン農家とともに、田植え、草刈り、電気柵管理などの現場作業を行っている。自身が主に関わる田んぼでは、法面が3メートルを超える場所もあり、刈払機を使って年6〜7回の草刈りを行う。


インタビュー

田んぼの周りにある法面。下からも、上からも届かず刈れない場所がある。

──まず、今回の現場について教えてください。法面とは、どこのことを指すのでしょうか。

田んぼと田んぼの高低差の部分です。棚田をイメージしてもらうとわかりやすいです。

米が植わる田んぼがあって、その周りに歩ける畔があります。その先に、一枚目と二枚目の田んぼの高低差がある。そこが法面です。棚田だと法面が多かったり、すごく高かったりします。

私が一緒に育てているお米の田んぼでは、3メートルを超える法面もあります。垂直ではないんですけど、緩やかでもない。誰でも立てるかと言われると、そうではないです。足場を選んで、踏ん張って立つ感じです。

──その法面の草刈りは、今どうやっているんですか。

基本は刈払機です。下から届くところまで刈って、上からもできるだけ刈ります。下の田んぼ側から草刈機を伸ばして上のほうまで刈って、上からも下に向けて刈ります。それで届くところもあるんですけど、3メートルを超えると、どうしても真ん中が残ります。

残ったところは、斜面を足場にして歩きながら刈るしかありません。ちょっとずつ法面を移動しながら、草刈機を持って刈ります。真っすぐな場所ではないので、つまずくだけでも危ない。機械も動いているので、年を取ってくると難しいだろうなと感じます。

──どのくらいの頻度で草刈りをする必要がありますか。

田植え前の4月から始まって、9月くらいまで。月1回だとしても年6〜7回は必要です。

4月に1回目があって、5月、6月、7月、8月、9月。草の伸びが早い時期は、本当にすぐ伸びます。昔と比べてどうかは言い切れないですけど、この暑さの影響で草が早いんじゃないかなと言われているのを聞いたこともあります。

一カ所を刈り終わっても、全部回るころには最初の場所がまた伸びています。

広い一カ所にまとまっていればまだいいんです。でも、ここにもある、あそこにもある、あっちにもある、という感じで、ちょっとずつがいっぱいある。だから草刈りこの日にこっちの場所をしたけど、全部終わった頃にはまた生えてる、という感じです。

──圃場はどのくらい分散しているのでしょうか。

畑も含めると8〜9カ所あります。

家の周りに何カ所かあって、そこは歩いて行けます。でも少し離れたところにも田んぼがあって、端から端だと車で移動します。遠いというほどではなく、5分以内に着くぐらいですが、それぞれ別の場所です。

作業は、今日はBの場所、次はCの場所、というように分けてやります。

AもBもCも一緒に全部やる、という感じではありません。どこかの場所だけ、朝の涼しい時間にやってしまう。1カ所なら午前中で終わることもありますが、草刈りを一日中やるのはかなりきついので、分割して進めています。


草刈りをしない選択肢はない。家族総出で草と戦う夏の期間。

──草刈りをしないと、何が問題になるんですか。

一つは電気柵です。草が電線に触れると、電気の効きが悪くなります。

イノシシやシカ対策で電気牧柵を張っています。でも草が当たると効きにくくなるので、草が電気柵に当たる手前で刈らなきゃいけない。獣害対策のためにも草刈りは必要です。

もう一つは、米の病気です。草を伸ばしておくと、いもち病にかかりやすいと聞いています。

全部の草が原因ではないらしいんですけど、草を放置すると病気のリスクがある。だから、見た目の問題ではなくて、米を守るために刈らないといけないんです。

──作業のなかで、特に大変なのはどこですか。

私はやっぱり法面が一番大変だと思います。足がきついです。

腕や握力も使いますが、特に足です。斜面で踏ん張らないといけない。下側から刈る人は、田植え後だと田んぼに水が入っているので、足元がぬかるみます。長靴だと足が取られるので、田んぼ用の靴を履いてやりますが、それでも普通の地面を歩くより大変です。

今はベテランの方々だからできているけど、これから体力が落ちたら困るだろうなと思います。

私自身は大きな事故を聞いたことはないです。でも、やっぱり大変だなと思いながらやっています。若い人が手伝えるうちはいいですが、今できている作業が、これからも同じようにできるとは限らないです。

──今は誰が作業を担っているのでしょうか。

基本は家族や近い人たちで、3〜4人くらいでやっています。

近所の人が手伝うというより、娘さんが帰ってきた時とか、息子さんが手伝える日とかに日程を組んでやる感じです。お米を食べているから手伝ってくれる、というのもあるかもしれません。

大きい規模のところでは、外国人の方やシルバー人材を使っているのを見たことがあります。

でも、自分たちでやっている規模だと、外注するというより、若手をどうにか集める感じです。草刈りの時間がどうにかなれば、体力的にも楽になるし、他の作業に時間を使えると思います。


草の下に隠れている石で刃が欠けてしまう、取り替え頻度は年間で10枚ほど。

──機械や道具には、どんな課題がありますか。

基本は刈払機です。メーカーで買うと6〜7万円くらいでした。

肩にかける普通のタイプもありますし、リュックみたいに背負って使うタイプもあります。背負うタイプのほうが高いところまで届くと聞いたことがあります。

石が多いので、刃がすぐ欠けます。4〜5回使うと替えることもあります。

法面にも畔にも石が多くて、カンカンカンと当たります。刃は割と使い捨てみたいな感じです。5枚で2,000〜3,000円、一枚400〜500円くらい。年間で10枚くらいは替えると思います。替えなくても切れますが、切り方が雑になったり、効率が悪くなったりします。

──刃以外の選択肢はありますか。

紐タイプの刈払機もあります。石や電気柵の棒に当たっても、刃ほどダメージがありません。

紐が高速で回って草を切るタイプです。石やパイプに当たっても、ちょっと紐が短くなるくらい。草も細かく切れて、次の伸びが抑えられる感じがあるので、すごくいいと思います。

ただ、草が細かく飛び散って、自分の服がすごく草まみれになります。洗ってもなかなか取れないくらいです。

それと、刃にしたり紐にしたり、先を毎回取り付けるのが大変です。長い草だと刃じゃないと難しいので、使い分けが必要です。紐タイプの先の機械を持っていない人もいます。

──ラジコン草刈機や防草シートのような選択肢は検討されていますか。

ラジコンみたいな草刈機は、畔で使っている人は見たことがあります。でも法面で使えるのかはわかりません。

ちょっと車みたいなものですよね。平らなところや畔なら使えるかもしれませんが、急な斜面だと難しそうです。価格も高そうなので、検討したことはありません。

防草シートは、量が必要すぎるし、張るのも張り替えるのも大変です。

田んぼの面積より、法面とか畔の面積のほうが多いんじゃないかと思うくらいです。だから全部に張るのは現実的ではありません。坂道に張るだけでも大変です。


草が刈れるなら方法はなんでもいい。道具を変えるか、土地を整えるか。

──もし新しい道具があるとしたら、どんなものが現実的だと思いますか。

上からも下からも刈って、それでも残る真ん中をどうにかできるものがほしいです。

たとえば、刈払機の棒が伸びるようなもの。高枝切りばさみみたいに長い草刈機があれば、いけるかもしれません。安全で動かしやすいなら、6〜7万円くらいでも自家用の人が買える範囲なんじゃないかなと思います。

今持っている刈払機を伸ばせるアタッチメントなら、もっとハードルが低いです。

新しく1台買わなくていいのは大きいです。時期だけレンタルするのもありかもしれません。棚田の人はすごく儲けているわけではないので、最初から高い機械を買うより、今ある道具に足せるもののほうが入りやすいと思います。

──道具以外に、現場で工夫できそうなことはありますか。

法面の真ん中に、歩きやすい道を作るのはありかもしれません。

牛が草原を歩くと、歩いた跡が道みたいになるじゃないですか。ああいう感じで、靴一足分の幅くらいの道を真ん中につくれたら楽になる気がします。前回足を踏んだ場所があると、やっぱりやりやすいんです。

ただ、それができるのは面積が限られているからかも。

私たちがやっている場所くらいなら検討できそうですが、ずっと長い法面が続くところでは大変ですよね。場所ごとの条件によると思います。


今の土地、方法を守りながら作業を楽にするには。

──土地改良で棚田を平らにする、という解決策は考えられますか。

根本的にはあり得る話だと思います。でも、私はそれは嫌なんですよね。

棚田を平らにして、土地改良や区画整理をすれば、作業は楽になるかもしれません。でも土を入れたりするので、元の味に戻るのに10年、15年かかると聞きました。

この棚田だから、おいしいお米ができると思っています。

確実に味は落ちると思うし、戻るかどうかもわからない。効率化のために、棚田のおいしさを壊したくないです。

──農業法人に任せるという選択肢も聞いたことがあります。

荒れるよりは、法人に貸したいと思っている人は多い気がします。

自分が農業法人に入ってやるというより、もう農家を引退して、土地を貸して、荒れないように守ってもらえたらいい、という人はいると思います。

ただ、中山間地の小さい土地には、大きな機械が入れないことがあります。

近くにも農業法人はあります。でも機械が大きいので、どこの畑でも入れるわけではありません。大きい道沿いの広めの畑なら法人が借りて作れますが、中山間地の多くは小さい畑だったり、行くまでの道が狭かったりします。法人に小さい機械がある、という形はありかもしれません。

──外部の起業家や技術に期待するとしたら、どこでしょうか。

まずは、今ある作業を少しでも安全に、楽にできるものです。

急に全部を自動化するより、届かないところに届く、足場が安定する、刃や紐の切り替えが楽になる、服に草がつきにくくなる、そういう小さな改善でも助かります。

あとは、棚田や中山間地の条件に合うものがほしいです。

大きい機械が入る平らな農地ではなくて、小さくて、急で、分散していて、道も狭い場所。そこに合う機械やサービスがあるといいと思います。棚田のお米を守りながら、草刈りだけを楽にできるなら、すごく意味があると思います。

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