POINT
- 輸入化学品のSDS(安全データシート)を、日本の法規制(安衛法、毒劇法など)に合わせてローカライズする手作業が膨大な負担になっている。
- 法改正のたびに対象となる化学物質が増加しており、過去のSDSを見直し・更新する作業がExcel等のアナログ管理では限界に達している。
- 現場が求めているのは、多機能で高額なシステムではなく、成分情報と国内法規制の「自動紐付け」など、痛いところ(ペイン)をピンポイントで解決する安価なツールである。
2024年4月、労働安全衛生法(安衛法)の大幅な改正により、化学物質の自律的な管理が義務化された。これにより、対象となる化学物質の数が急増し、全国の製造業や化学物質を取り扱う企業の現場では、対応に追われる日々が続いている。
中でも現場の担当者を悩ませているのが、「SDS(安全データシート)」の管理と作成業務だ。今回、医療・研究関連の化学物質(試薬など)を扱う企業で、長年化学物質管理の最前線に立つA氏に匿名を条件にインタビューを実施した。
膨大な輸入化学物質のSDSを日本国内の法規制に合わせてローカライズ(作り直し)する作業が手作業で行われており、現場の大きな負担となっている。
安衛法改正などにより管理対象物質が急増。海外メーカー提供のSDSは日本の法律に準拠していないため、成分ごとの照合と修正が不可欠だが、アナログ管理では追いつかない。
既存のパッケージシステムは高額かつ多機能すぎるため費用対効果が合わず、現場のピンポイントな課題を解決するソリューションが不足している。
課題説明
医療機関や研究機関向けの試薬など、化学物質の多くは海外からの輸入に依存しています。海外メーカーから提供されるSDSはGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)ベースで作成されていますが、日本国内の顧客に提供するためには、毒物及び劇物取締法、消防法、労働安全衛生法といった日本の複雑な国内法に則って記載内容を「ローカライズ」する必要があります。
現在、この成分情報の紐付けとSDSの作り直し作業の大半は、担当者が無料ツールやExcelを用いた「手作業」で行っているのが実情です。さらに、毎年のように行われる法改正に伴い、過去に作成した膨大なSDSの中から対象物質を特定し、更新する作業も発生します。
管理側も営業側も常に最新のSDSを共有・把握しなければならない中、アナログな管理体制は限界を迎えています。しかし、市販の管理システムは重厚長大でコストが見合わないことが多く、現場は「成分と法律の自動紐付け機能」などに特化した、シンプルで使い勝手の良いツールを渇望しています。
SDSとは「安全データシート」の略で、Safety Date Sheet の頭文字をとったものになります。これは、化学物質を譲渡または提供する際に、その化学物質の危険性や取扱方法、保管方法などを提供相手に伝達するために交付されるものです。
https://journal.smartsds.jp/detail/what-is-sds-and-how-to-make-sds

【お話を伺った方】
所属企業: 医療・研究機関向け化学物質(試薬等)取扱企業
担当業務: 化学物質管理、法規制対応、SDS作成・管理全般
背景: 取扱製品の約8割が海外からの輸入品。国内外の複雑な法規制と日々格闘しており、アナログな管理体制に限界を感じ、現場目線での効率的なシステム化の必要性を痛感している。
インタビュー
輸入製品の壁。立ちはだかる「SDSローカライズ」の途方もない作業
--現在の主な担当業務について教えてください。
A氏:
主に化学物質の管理全般を担当しています。弊社は医療機関や研究機関向けの試薬などを扱っており、製品の約8割が海外からの輸入、残りの2割が国内での製造(委託製造含む)です。私のミッションは、これら製品に関わる化学物質の法規制対応や、SDSの作成・管理業務になります。
--海外製品を扱う上で、化学物質管理の最大のハードルはどこにありますか?
A氏:
圧倒的に「SDSのローカライズ(日本仕様への作り直し)」ですね。海外から製品を輸入する際、メーカーからSDSは提供されますが、それをそのまま日本国内の顧客に提示することはできないんです。
--言語の翻訳だけでは済まないということでしょうか?
A氏:
言語だけでなく、適用される法律が違うからです。日本の毒物及び劇物取締法(毒劇法)や消防法、そして今回の労働安全衛生法(安衛法)など、日本の国内法に則った記載に直さなければなりません。
例えば、海外では規制対象として指定されていない化学物質であっても、日本の法律や濃度基準では規制対象になるケースがあります。これを一つ一つ成分を紐解き、日本の法律と照らし合わせてSDSを作り直す作業が、途方もない手間なんです。
--現状、そのローカライズ作業はどのように行っていますか?
A氏:
ほぼ手作業です(苦笑)。厚生労働省や関連機関が出している無料のツールやExcelなどを使いながら、手打ちでポチポチと入力しています。
法改正の波と、アナログ管理の限界
--法規制への対応など、アナログ管理で特に苦労されている点は?
A氏:
製品数は膨大で日々増えていく上に、厄介なのが「法改正への対応」です。
法律が変われば、それに伴って既存のSDSも更新しなければなりません。特に今回の安衛法改正では対象物質が大幅に増えました。過去に作成したSDSを洗い出し、法改正の影響を受けるものを特定して修正していく作業は、Excelの管理台帳だけではもう限界に来ています。
--作成したSDSの社内共有における課題はありますか?
A氏:
現状は社内の共有フォルダにPDFを格納している状態です。ただ、最新版がどれか分かりにくかったり、営業から「この製品のSDSはどこにあるか?」といちいち問い合わせが来たりと、管理側・営業側の双方で非常に非効率です。
理想を言えば、クラウド上で一元管理されていて、営業がスマホやタブレットからいつでも最新のSDSを取り出せるような状態にしたいですね。
現場が本当に求めている「システム」の姿とは
--既存の化学物質管理システムの導入を見送っている理由は?
A氏:
いくつか検討しましたが、一つはコストの問題です。大手企業向けの多機能なパッケージシステムは、初期費用もランニングコストも非常に高額で、我々のような規模感の企業では費用対効果が合いません。
--機能面でもミスマッチがあるのでしょうか?
A氏:
はい。高額なシステムは確かに多機能ですが、私たちの業務フローにジャストフィットするかというと疑問が残ります。私たちが本当に欲しいのは、何でもできる重厚長大なシステムではなく、「痛いところ(ペイン)をピンポイントで解決してくれるツール」なんです。
--現場が一番解決してほしい「ペインポイント」は何ですか?
A氏:
やはり、「成分情報と日本の法規制の自動紐付け」ですね。 海外のSDSや成分表を読み込ませたら、自動で日本の法規制(安衛法、毒劇法、消防法など)に照らし合わせて、「この成分は何パーセント入っているから、この法律に該当する」というアラートを出してくれ、さらにそれを元に日本版のSDSのベースを自動生成してくれる機能。これがあれば、業務の負荷は劇的に下がります。
あとは、法改正があった際に自社の登録データベースと自動照合し、「この製品のSDSは更新が必要です」と教えてくれるような機能です。
法規制は年々厳しく、複雑になっています。すべてを人間の力(マンパワー)とExcelでカバーするのは、もはやリスクでしかありません。現場のフローを理解し、複雑な法解釈や手入力作業から解放してくれるような、使い勝手が良く導入しやすい価格帯のシステムが登場することを、業界全体が待ち望んでいると思います。