■ 誰の困りごとか
地方にUターンし、地域で働きながら生活を築こうとしている方の困りごとです。

■ どこでの困りごとか
静岡県焼津市のような地方都市をはじめ、全国の地方地域で起きている課題です。

■ どんな困りごとか
地方では人手不足と言われる一方で、課題を抱える地域側とスキルを持つ人材が出会う接点が少なく、仕事につながらないという構造的な問題です。
都市部で経験を積んだ人材がUターンしても、地域企業の仕事は小規模・低予算なケースが多く、生活を支えるほどの仕事量を得ることが難しい状況があります。
その結果、地方に住みながら都市部の仕事をリモートで続ける働き方が増え、「地域で働く」という理想と実態の間にギャップが生まれています。

課題説明


地方移住やUターンは政策的にも推進されていますが、実際には「地域で働く機会」を見つけることは簡単ではありません。

都市部でキャリアを積んだ人材が地元に戻った場合でも、地域企業が必要とする仕事と本人のスキルが一致しないケースが多くあります。また、そもそも地域の課題を抱える人と、それを解決できる人材が出会う場が少ないという問題も存在します。

地方では「人手不足」と言われる一方で、外から来た人材が地域の仕事に関われないという矛盾も生まれています。

結果として、Uターンした人材は都市部の仕事をリモートで続けながら生活するケースが増えています。しかしそれでは地域への貢献実感が薄く、「地元で働く」という理想とはズレが生じてしまいます。

地方での仕事づくりには、スキルや雇用制度以前に「人と人が出会う接点」をどう設計するかが重要な課題となっています。


増井拓良さん プロフィール

静岡県焼津市在住のハードウェアエンジニア。
大学では機械工学を専攻し、新卒で大手メーカーの研究開発職として約5年間勤務。退職後キャリアブレイク期間に日本各地を巡る中で、地元で暮らすことを決意しUターン。

インタビュー


メーカーの研究職から地域活動へ

──大学ではどんな分野を専攻されていたのでしょうか。

増井:
大学では機械工学を専攻していました。新卒ではメーカーに就職して、研究開発職として5年ほど働いていました。

──今の仕事はその延長線上にあるんですか。

増井:
結果として前職で培った経験やスキルを活かした仕事をしています。
ただ、最初から今の働き方を意図していたわけではありません。

もともとは地域おこしのような活動に関心があり、地元のコワーキングスペースでコミュニティマネージャーを勤めていたこともありました。

ただ、そうした仕事は稼働時間に対する対価が厳しく、自分の生活を削っている感覚があり、この先も続けていけるのだろうかという悩みがありました。

そこで、スキルを活かして収入を得る仕事と、自分が関わりたい地域活動は分けて考えるようになりました。


地域活動と生計のバランス

──今は地域活動と仕事の割合はどのくらいですか。

増井:
ほとんど仕事が中心で、地域活動にはプライベートで関わることが多いです。

──理想としては地域活動の比重を増やしたいですか。

増井:
個人的にまちづくりに関わる仕事だけで安定して収入を得るモデルは、まだあまりイメージできていません。
なので、基本的には今の仕事を軸にしながら、地域活動は+αで関われればいいかなという感覚です。


仕事はどうやって得ているのか

──今のエンジニアの仕事は静岡の仕事ですか。

増井:
静岡の仕事もありますが、県外の仕事もあります。

──その仕事はどうやって獲得しているんですか。

増井:
ありがたいことに、人とのつながりの中で声をかけてもらうことが多いです。
SNSの発信がきっかけだったり、直接会って話したりする中で「一緒にできそうだね」と仕事になっています。


コミュニティの仕事からスタート

──最初に地元に戻った時はどんな仕事から始めたんですか。

増井:
最初はコミュニティ運営の仕事をしていました。

ただ、収入はかなり低かったです。
一方で、その仕事で出会った人から別の仕事を紹介してもらえるようになり、なんとか生活を成り立たせていました。

──その仕事には限界を感じたんですか。

増井:
そうですね。コミュニティ事業はそもそも収益を生み出しにくい構造だと感じます。

運営会社が別事業で得た収益で支えているケースも少なくありません。

そのため、事業単体で働く人の給与を上げるのは難しいのが実情です。

自分自身の生活を犠牲にしてまで続けるのは難しいと思いました。


コミュニティ事業は構造的に稼ぎにくい

──それは地域特有の問題ですか。

増井:
多くの地域で似た課題があると思います。

もちろん例外的に成功している事例もありますが、コミュニティ事業は基本的には収益化が難しいモデルです。


地域イベントの立ち上げ

──地域でイベントもやっていると聞きました。

増井:
はい。民間団体の活動として、焼津でイベントを主催しています。

今年で5回目になり、2日間で約1,500人が来場する規模にまで大きくなりました。

──どういうきっかけで始めたんですか。

増井:
以前勤めていた施設の認知を広げたいという課題と、焼津には若者が夜楽しめる場所が少ないという課題がありました。

その2つを同時にを解決できるイベントをやろうという話になり、地元の有志で始めました。


イベントは事業になるのか

──そのイベントは事業として成立していますか。

増井:
立ち上げ当初は、ほぼボランティアで運営していました。
現在は多少の収益が出るようになりましたが、それだけで生計を立てられるほどではありません。


Uターン人材が抱える課題

──Uターンして地域で働く上での課題は何だと思いますか。

増井:
圧倒的に、地域の課題を抱える人と、それを解決できる人が出会う接点が不足していることだと思います。

地方では人手不足と言われますが、実際には必要な人材がいないのではなく、課題を持つ人とスキルを持つ人が出会えていないだけ、というケースも多いのではないでしょうか。


地方では信頼が仕事を生む

──地域ではどんな人が仕事を得やすいですか。

増井:
スキルももちろん必要ですが、それ以上に、日頃から築いてきた信頼関係が大切だと感じます。

地方では特に「この人なら安心して任せられる」と思ってもらえるかどうかが、仕事につながる大きな要素になります。


地元企業との仕事の難しさ

──地元企業との仕事はどうでしたか。

増井:
業務委託で関わることもありました。

AIチャットボットの開発や、ウェブサイトの改修などです。

ただ、1件あたりの仕事量は多くなく、月10時間程度の案件もありました。

──それだと生活は難しいですね。

増井:
収入の水準にもよりますが、地域の仕事だけだけで生活しようとすると何社も契約しないといけなくなります。


地元企業の予算の問題

──なぜ仕事が増えないのでしょうか。

増井:
企業側も予算に限りがあり、大きな仕事を外部に委託するのは難しいのが実情です。
また、外部人材に業務を任せた経験が少なく、どのように依頼・管理すればよいかわからない企業もあります。

そのため、契約は月数万円程度の小規模なものになりがちです。


Uターンした理由

──そもそも地元に戻ろうと思ったきっかけは何ですか。

増井:
前職を退職した際、あえて次の就職先を決めずに、キャリアブレイクの期間を取りました。その間に自分と向き合うため、日本一周の旅に出ました。

旅をしながら次の拠点を探していたのですが、日本には魅力的な場所が多く、かえって「ここに住みたい」と一つに決めることができなくなりました。

そのときに思ったのが、「唯一、簡単には切り離せない場所は地元だ」ということでした。
そこで、地元とのつながりを改めて見つめ直し、焼津へUターンすることを決めました。


地元愛は後から生まれた

──もともと地元愛が強かったんですか。

増井:
いえ、むしろ焼津に戻ってから、地域には面白い人がたくさんいることに気づきました。

最初から強い地元愛があったわけではありません。
地域で暮らし、人と関わるなかで、地元への愛着が少しずつ育っていった感覚です。


Uターンの現実

──今の生活には満足していますか。

増井:
精神的には満足しています。
ただ、収入はかなり下がったので、手放しで満足しているとは言えません。


地方で働くための現実的な方法

──Uターンする人にアドバイスはありますか。

増井:
地方に戻ることを考えるなら、まずは今の仕事や収入の基盤を手放さずに移るほうが現実的だと思います。

生活を安定させたうえで地域とのつながりを少しずつ築き、地域の仕事を増やしていく。
そのほうが、無理なく地元での暮らしと働き方をつくっていけるのではないでしょうか。


地域のリスクという問題

──地域の課題として感じていることはありますか。

増井:
焼津は海に面しており、南海トラフ地震などの災害リスクと向き合う必要があります。

だからこそ、誰にでも安易に移住を勧めるのではなく、まずは地域とゆるやかにつながる「関係人口」を増やしていくことが現実的だと考えています。