東京で子育てをしている地方出身の家庭にとって、避けては通れない「壁」がある。子どもの急な発熱や体調不良だ。

特に、実家が遠方にあり、共働きで頼れる先が限定されている家庭にとって、この事態は単なる「不便」を超え、家庭崩壊の一歩手前まで追い込まれる深刻なリスクとなっている。既存のベビーシッターやファミリーサポート、病児保育といったサービスは存在するものの、それらが「緊急時」という最も支援が必要な瞬間に機能していないという現実がある。


インタビュー概要

今回、東京・葛飾区に住み、2歳と0歳の二児を育てながら現在育休中の荒井さんに、自身の過酷な闘病体験と、都市部ならではの制約、そして既存サービスの構造的な欠陥について詳しく話を聞いた。


■ 誰の困りごとか
東京など都市部で子育てをしている、地方出身の共働き家庭の困りごとです。特に、実家が遠方にあり、頼れる親族が近くにいない子育て世帯にとって深刻な問題です。

■ どこでの困りごとか
東京・葛飾区のような都市部をはじめ、実家から離れて子育てをしている都市部の家庭で広く起きている課題です。

■ どんな困りごとか
子どもの急な発熱や体調不良が起きた際、頼れる家族が近くにおらず、既存の病児保育やファミリーサポートなどの制度も緊急時には利用しにくいという問題です。
事前登録や書類手続き、定員不足などの制約により発熱当日に使えないケースが多く、ベビーシッターも心理的な不安から利用しづらい状況があります。その結果、親自身が体調を崩していても看病を続けるしかない家庭が生まれています。

荒井 さんインタビュー

「気合で乗り切る」しかない。家族全員が倒れた1ヶ月

── 昨年12月、ご家族全員で体調を崩されたと伺いました。どのような状況だったのでしょうか?

12月の頭から年末まで、ずっと誰かが倒れている状態でした。最初は夫が胃腸炎を持ち帰ってきて、それが0歳の娘にうつり、次に2歳の息子、そして私……。息子は特に重症で、救急車で運ばれるほどでした。

── それは壮絶ですね。その間、どなたかサポートはありましたか?

夫は仕事が休めず、朝の送り迎えを1週間手伝ってくれるのが限界でした。結局、私自身も高熱を出してフラフラになりながら、5分おきに吐く息子の処理をし、同時に0歳の娘の面倒を見る。もう「気合」で乗り切るしかありませんでした。最終的には石川県の実家から母を2日間だけ呼び寄せましたが、母にもうつすわけにはいかず、すぐに帰ってもらいました。


夫婦間の役割分担と「ワンオペ」の現実

── 旦那様は仕事で不在とのことですが、その間の家事や育児の負担はいかがでしたか?

夫は仕事が休めないため、基本的に私が全てを担いました。病気の子どもを看病しながら、日頃の食事作りや洗濯に加え、病気の子のためのお粥など別の食事も用意しなければなりません。

最も大変だったのは寝かしつけです。息子は胃腸炎で吐きまくるため、娘とは別のリビングで寝かせる必要がありました。しかし、子どもたちは「ママがいい」と夫では泣いてしまうため、私が分身しないと二人を同時に寝かしつけられない状況でした。

この時、母が来てくれたことで、母にリビングで息子を見てもらい、私が寝室で娘を寝かしつけるという分業ができ、本当に助かりました。夫は残念ながら、この状況では「戦力としてカウントされない」のが現実です。


既存サービスが「緊急時」に使い物にならない理由

── 行政のファミリーサポート(ファミサポ)や病児保育は検討されなかったのですか?

ファミサポは登録こそしていますが、そもそも葛飾区では「病気の子は見られない」という前提があります。病児保育や病後児保育についても調べましたが、とにかくハードルが高いんです。

まず、家から徒歩圏内に病児保育が一つもありません。あるのは「病後児保育(回復期のみ)」が一つだけ。そこを利用するにも、事前に子どもを連れて窓口へ行き、30分以上の説明を受けて「事前登録」を済ませておく必要があります。

いざ当日になっても、定員が4名程度と極めて少なく、インフルエンザ流行期などはまず空きがありません。

── 登録していても、当日の予約が取れないのですね。

そうです。さらに、利用には医師の診断書が必要だったり、当日も大量の書類を書かなければならなかったり。高熱で泣き叫ぶ子どもを抱えながら、そのプロセスをこなすのは現実的ではありません。

結局、病後児保育は「元気だけど薬を飲んでいる」程度の時にしか使えず、本当に困っている「発熱当日」には機能していないんです。


ベビーシッター利用を阻む「心理的な壁」

── 民間のベビーシッターについてはどうお考えですか?

実は、あまり選択肢に入っていませんでした。補助金が出ることは知っていますが、一番のネックは「精神的なハードル」です。

知らない人を家に入れることへの恐怖心があります。子どもの安全はもちろん、自分がいない間に家の中を物色されるのではないかという不安も拭えません。かといって、自分がいる時に来てもらうのも、他人に気を遣って余計に疲れてしまう。

結局、「知らない人に預けるくらいなら、自分で頑張ったほうがマシ」という結論になってしまいます。

── 性別による抵抗感もありますか?

それは正直、かなりあります。ニュースで見る事故や事件のイメージもあり、男性に預けるのは、特におむつ替えが発生する年齢の娘がいると、100%無理だと思ってしまいます。

女性であっても、やはり「日頃から知っている人」でないと、病気の時に預けるのは怖いです。


求められているのは「マッチング」ではなく「信頼の延長」

── どのような仕組みがあれば、利用したいと思えますか?

一番は、子どもがいつも通っている保育園で、そのまま病児対応をしてくれることです。先生たちは子どもの性格も理解してくれていますし、子ども自身も信頼しています。場所も慣れている。

そういう「信頼関係の延長」にある場所で預かってもらえるのが理想です。

二つ目は、遠方の親を呼び寄せるためのサポートです。例えば、親の交通費を補助してくれる制度があれば、迷わず母を呼べます。知らないシッターさんにお金を払うより、実の親に来てもらうほうが精神的な安心感が全く違います。

── 「信頼できる人」へのアクセスが重要だということですね。

そうです。あとは、一時間1,000円くらいで、スポットで4時間だけ預けられるような、もっとカジュアルで信頼できる仕組みがあれば。会社が福利厚生として、使いにくいシッター補助券ではなく、こうした「緊急時の実家サポート」「園内病児保育」をサポートしてくれたら、本当に助かります。


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